小説「ヘブンズトリップ」_14話
冷えあがった心臓は通常の温度の取り戻した。
走り進んでいくと道路の幅は狭くなり、フロントガラスから目につくガードレールの数も少なくなっている。
車内のデジタル表示の時刻は十一時を示している。
一旦、路肩に車を寄せてエンジンを切り、地図を二人で確認することにした。車内灯を点けないとさすがに何も見えない。
「この辺だ」
目的地には山を切り開いた道を通らなければならない。現在地の場所から指で道をなぞっていく。
「もう二本先で曲がって山に入る。通り過ぎちゃうかもしれないからお前もしっかり見ててくれ」
「ああ、この暗さじゃ見落とすな」
史彦は徐行というスピードで走り出す。
「しかし、出そうだな」
「何が?」
史彦は笑っている。
「霊的なやつ」
「そうか? 俺は想像力がないから何も思わないけどな」
そんなことを話していたら道路脇に左折する道があることが気がついた。
高い木々がそびえ立ち、奥に見える数件の低い民家が葉で覆われて視界にとらえにくい。
ただの細道だというのはわかるが、そこに見える暗闇はまるで別世界のようだった。
急ブレーキ気味に車が停車されて、隣で史彦の喉がゴクッと音を鳴らした。
続いていく闇の中の暗がりは空間を包みこむようで、体から湧きあがってくるのはここから先、自分がどこへどうやって行くのかって漠然とした曖昧な気持ち。
体温は上昇し、緊張を高めていく。
「この道をまっすぐい進んでいけばいいんだろうけど、この先コンビニとか全然なさそうだな」
ずっとコンビニの駐車場で休んでいた史彦はあることを心配していた。
「途中で腹減ったりしないかな、もう店もやってないだろうし、この時間に道に迷ったら誰にも聞けないぜ」
史彦は妙に慎重になっている。
「きっと一本道だろうから、大丈夫だろ。お茶ならさっきお前の分も買っておいたぜ」
足元に置いたビニール袋を見せても史彦はあんまりうれしそうにはしなかった。
「じゃ、進むぜ」
最初は気づかなかったが、民家が少なくなって、少しずつ道に勾配がかかっていくのがわかって、ぐるぐる回って山を登っていく道だった。
法律で道路の勾配の最大が決められているらしく、その範囲で道路を作るために曲がりくねって上に登っていく。つづら折りのように登っていけば、距離は伸びるけど傾斜は緩
やかになる。
「亜蘭山の上空を眺められる場所ってあるのかな」
「登山コースみたいなものがあれば見晴らしのいいとこがあると思うんだけど」
「こんな山道からそんな登山コースに合流できるのかな」
考えても仕方ない。視界は似たような街灯に照らされたコンクリートの道路のみ。
対向車もなし、いつの間にか虫の声も聞こえなくなった。
ころ、 俺は道の脇の景色に突然の大声をあげてしまった。
「史彦、おい」
史彦はすぐに返事をしなかったが、すぐにブレーキを踏んで車を停車させた。
急ブレーキだったので車体が大きく前面に傾いた。
きょとんとした顔で俺が見ている同じ方向に目を向ける。
茂みの中に忘れられたように置かれているのは時間が経過した建造物だった。
車から先に降りた俺は囲まれた鉄の策に手をかけて上半身をを前のめりに、自分のとらえた景色をもう一度確かめた。
目の前には朽ち果てて閉鎖しただろう遊園地が存在していた。
「遊園地かあ」
車を寄せた史彦も遅れて俺の隣に降りてきた。
動きが止まった遊具にからみつく植物のツタや、捨てられた雑誌やゴミが物語るのは長い年月が経過しているということ。
「こんなとこあったんだな」
「やってなさそうだな」
鉄の柵は簡単に乗り越えることができそうだったが、中に入るのは止めておいた。
長い間この閉鎖された遊園地にはおそらく人の手が加わってはいないが、動物たちが住処にしている可能性がある。彼らから見たら、後からきた俺たちはよそ者に該当する。自分たちと異なるやつは仲間には迎え入れない。要するに学校と同じだと史彦は言った。