ACE of CUPS (カップのエース)
〈カードの意味〉
〈逆位置の意味〉
「もう帰る時間か。早いねぇ」
制服を着た少女は隣にいる友人へ言葉を送った。送られた少女は「また学校で会えるじゃん?」とクールに返す。時折電車の中で遭遇する青春のひとコマ。雨が降ろうが槍が降ろうが彼女たちの輝きはこうして生まれる。
駅に停車するとクールに返答した少女はスッと立ち上がり「じゃ」と降りた。残された少女は小さく手を振る。友人が人混みに溶けると少女は今まで浮かべていた表情を停止させた。そしてリュックのサイドポケットから手帳のようなものを取り出し何かを書き出した。先程の幼い表情からの変わりように私は少し動揺した。彼女は何を連ねているのだろう。勉強だろうか、日記だろうか、それとも。幼い頃夜中に目が覚めて両親がリビングで話している姿を目撃した瞬間のような空気を纏う彼女は。
私達はその逆を生きている。普段は人間社会に息を潜め、眉間にシワを寄せ歯車の調子を整える。キーボードを押えつけ何処かで見たことがある美辞麗句を誂え顔も知らない役職に送るのだ。
しかし、夜の帳が下り魔物たちの呼吸が風に乗って耳に滑り込んだ頃、彼らは言葉(音)を繰る者として咆哮する。旋律に乗せて、観客を睨み、淡々と、抑揚をつけて、煽るように、誰1人被らないし被らせない。
朗読だけじゃない。詩の世界に誘う番人、言葉と言葉の余韻、狂った色使い、依存した恋の味、錠剤に隠した罪に初めて刻んだ十字の模様、被るはずがない。聖人なんてここにはいない。残酷だし醜いし傷つけられたらその倍以上傷つける。駄目って言われても暴走が冷めるまで継続する。蜘蛛の糸なんて平気で断ち切る。聖書は破り捨てマリア像に中指を立てる。孤独な境界に素手で触れようなら瞬く間に獰猛な魔物が目覚めて、貴方を襲う。
そうでもしないと生きていけないから。