【短編小説】亡イ者強請リ

時は令和、貪婪どんらんな空気に支配されるのは新宿歌舞伎町である。
怪しく光る象徴的なアーチの麓に1人の少女がいた。長い髪にレースが装飾された黒いワンピース、有名ブランドのリュックを合わせた"地雷系"というファッションに身を纏っていた。
「お待たせ」
そこへ30代半ば頃のスーツ姿の男が現れた。
「お久しぶりです。今日も宜しうございます」
少女はその格好から想像もつかない上品な口調で返し微笑んだ。
少女は空虚な心を満たす為に素性も知らない男と定期的に会食をし金銭を受け取る生活をしていた。その日暮らしのような生活に危機感を覚えつつも辞めることは出来なかった。

ある日少女の夢に1人の女性が現れた。雪原のように白い肌と唇に走る紅が色気の根源だった。女は生前吉原の花魁だったと説明し、少女に「貴方の身体を貸して欲しい」と言った。あの世との狭間の世界を彷徨う中、魂が共鳴した少女の体を一時的に借りて自由を味わいたいとの事。
疲弊していた少女は二つ返事で承諾し契約が成立した。
花魁が移った少女は文字通り垢抜けた。吉原で培われた質の良い教養による話術と艶めかしい所作が気に入られ、生活の質も上がった。入れ替わっている間の少女は、花魁がいた狭間の世界から可憐に振る舞う己を諦観していた。

終焉は突として訪れる。
その日も馴染みの相手と食事をし、街を散策していた。別れ際に男は少女に深い関係を申し込んだ。
花魁は「御冗談を」と躱そうとするも、男の慾は制御不可能の状態だった。人気のない林へ連れ込み、少女を押し倒し首に手を掛け「俺を受け入れないなら今すぐ殺す」と恫喝した。

花魁は生前の記憶が蘇り半狂乱となった。彼女の死因も常連客からの愛憎による絞殺だったのだ。花魁は藁にもすがる想いで狭間へ行き、少女へ助けを求めた。
しかし返ってきたのは残酷な言葉だった。
「いいよもう死んじゃって」
「は?」
「だって今の時代生きるの面倒じゃん。だから私はこのまま死んで猫に生まれ変われるの。ほらさっさと死んでよ。」
少女はそう言い放つと花魁の腕を掴み、世の境界へ突き落とした。
花魁は二度の悲惨な最期を遂げる事となった。

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