「バカの壁」(目次)を読む
本を書きたいと思って、調べていていくうちに、どうやら「平成」でもっとも売れた新書は、『バカの壁』(新潮新書、2003)であることを知った。
450万部も売れたそうだ。物書きだけで食べていける人は日本で100人いないらしい。50人程度だと聞いたことがある(取材、広告、マンガ・舞台・TVドラマ・映画化などの副収入は除く)。浅田次郎先生や養老孟司先生、村上春樹先生(クラス)ほか、有名推理・ラノベ・時代劇・(人間)物語シリーズの有名作家さんになってようやく一人前に食べていけると伺った。だから、文筆家(漫画家)志望よりユーチューバー参入の方がかなり敷居が低いように思えた。並の芥川賞・直木賞作家レベルでは筆一本で生きて行けない(あまり収入は見込めない)。夢のない話だ。かくいう浅田先生もしばらくの間は作家とアパレル業の「二足の草鞋」で生活していたという(浅田次郎編 1997)。
昨今話題の中田敦彦さん、メンタリストDaiGoさん、ひろゆきさん、ホリエモンこと堀江貴文さんでも著書一本では食べていけない。他のSNS関係やビジネスがあってこそ生活が成り立っている(むしろ、SNSで話題から出版が最近の傾向)。
話は変わるが、学者の中には3通りの人間が居る(と思われる)。①堅実化タイプ(就職するまでが研究者、その後は会社員型。最近は社会人から転職する逆パターンも増えてきた)、②情熱家タイプ(本人の研究・出版は皆無だが、学生の面倒見は非常に良い。また学会等の雑務をマメにこなす世話好き人情型)、③研究者タイプ(業績=論文、本をたくさん出版し、かつ学生の面倒見も良く、きちんと雑務もこなす。②ほど自分を他者に捧げないが、バランスの良い超人型=「真」の学問好き)。
無論、就職した大学環境によって研究に時間を割くことが出来る「可能性という名の時間」は定まるが・・・。また自身の余暇を研究に捧げられるかどうか、そこまで研究に打ち込めるか、といった本人の気質によるところも大きい。
現実的には③のタイプは非常に少ない。有名な先生でも無名大学に所属しているといったケースはよく見られることだ。ちなみに大澤真幸先生の場合は、自身の能力や資質によって生活を確保している。定年退職後の③タイプと言えるだろう。
注:「研究助成」など資金面に余裕がある分、大学に就職すると執筆に安定性が生まれる。また肩書き(信頼感)、基本収入がある点においても作家業とは少し異なる。
さて、本題に入ろう。
「バカの壁」を全て熟読する訳にもいかないから目次だけ分析してみる。
まえがき
第1章 「バカの壁」とは何か
「話せばわかる」は大嘘 「わかっている」という怖さ 知識と常識は違う
現実とは何か NHKは神か 科学の怪しさ 科学には反証が必要 確実なこととは何か
第2章 脳の中の係数
脳の中の入出力 脳内の一次方程式 虫と百円玉 無限大は原理主義 感情の係数 適応性は係数次第
第3章 「個性を伸ばせ」という欺瞞
共通了解と強制了解 個性ゆたかな精神病患者 マニュアル人間 「個性」を発揮すると 松井、イチロー、中田
第4章 万物流転、情報不変
私は私、ではない 自己の情報化 『平家物語』と『方丈記』 「君子豹変」は悪口か「知る」と「死ぬ」 「朝に道を聞かば……」 武士に二言はない ケニアの歌 共通意識のタイムラグ 個性より大切なもの 意識と言葉 脳内の「リンゴ活動」 theとaの違い 日本語の定冠詞 神を考えるとき 脳内の自給自足 偶像の誕生 「超人」の誕生 現代人プラスa
第5章 無意識・身体・共同体
「身体」を忘れた日本人 オウム真理教の身体 軍隊と身体 身体との付き合い方 身体と学習 文武両道 大人は不健康 脳の中の身体 クビを切る 共同体の崩壊 機能主義と共同体 亡国の共同体 理想の共同体 人生の意味 苦痛の意味 忘れられた無意識 無意識の発見 熟睡する学生 三分の一は無意識 左右バラバラ 「あべこべ」のツケ
第6章 バカの脳
賢い脳、バカな脳 記憶の達人 脳のモデル ニューラル・ネット 意外に鈍い脳の神経 方向判断の仕組み 暗算の仕組み イチローの秘密 ピカソの秘密 脳の操作 キレる脳 衝動殺人犯と連続殺人犯 犯罪者の脳を調べよ オタクの脳
第7章 教育の怪しさ
インチキ自然教育 でもしか先生 「退学」の本当の意味 俺を見習え 東大のバカ学生 死体はなぜ隠される 身体を動かせ 育てにくい子供 赤ん坊の脳調査
第8章 一元論を超えて
合理化の末路 カーストはワークシェアリング オバサンは元気 欲をどう抑制するのか 欲望としての兵器 経済の欲 実の経済 虚の経済を切り捨てよ 神より人間 百姓の強さ カトリックとプロテスタント 人生は家康型 人間の常識
個人的に直感で気になる所だけ太文字にしてみた。
だいたい半分くらいは太文字になった(もう一度やると大幅に変わるかもしれない、笑)。
とりあえず私は「脳の問題」に関心があるということだけは分かった(笑)
それは文系人間(かつ慎重派)だからなのかもしれない・・・
久しぶりに読み返してみたら(おそらく)また面白い発見があるのではないか、と感じた。
目次分析の結論は、「分かりやすい言葉」と「分かりづらい言葉」が半分ずつあるという点である。
壁シリーズは全て一読しているが、原点は「バカ」である。
最新作は『ヒトの壁』(新潮新書、2021)であるが、このシリーズは出版される度に売上が減少していく、といった宿命を背負っている(笑)。
それは多くのこと(基礎)を「バカ」で話してしまったからに他ならない。
それゆえに壁シリーズの入門書としてこの本は今でも非常に楽しめるのである。
【参考文献】
浅田次郎(1997)『勝負の極意』幻冬舎アウトロー文庫
(2022.4.23)