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中国ドラマを平和な気持ちで楽しみたいけれど…

海外ドラマが好きで、中国で配信中(日本未上陸)の人気ドラマを視聴して、noteで紹介している。
 
いろんな国の人気ドラマを純粋に楽しみたいけれど、こと中国ドラマに関しては、情報を深掘りすると、モヤモヤする機会が少なくない。
 
例えば、ドラマを通じて好きになった俳優たちのSNS(ウェイボ)を見ると、日中の歴史的な節目の日には、芸能人がみんなそろって同じ投稿をしていることに気づくだろう。ニュース通信社が配信した「血と涙を決して忘れない」という類のメッセージを「リツイート」のような形で一斉に投稿するのは、暗黙のルールのようだ。
 
近年、中国の当局は芸能界への規制を強めていると言われている。国を愛する芸能人を強く支援し、スキャンダルを抱えた芸能人の出演をより厳しく制限するという方針を示していると、日本でも報じられた。

芸能界で活躍するためには、「愛国」が必須条件となっている。たとえ建前であっても地位と仕事に守るために、愛国心を示す必要がある。

この「愛」という漠然としたキーワードがややこしいが、「歴史を忘れない」と表明することが「愛」の1つの指標となっているようだ。
 
一方で「愛国」を義務付ける政府と、「愛国」を拡大解釈するネットユーザーが組み合わさると、インターネット空間はひどく不健全となる。日本と同様に、中国にもいろんなネットユーザーがいる。芸能人の国に対する「愛」をジャッジすべく、投稿をこまかく監視している人がいるのだ。
 
ほんの一言、過去の1投稿であっという間に引きずりおろされるリスクを有名人の誰もが背負う。
 
例えば3年前、主演ドラマ『山河令』が大ヒットして人気の絶頂期に差し掛かっていた俳優は、過去に日本の神社で何気なく撮影された写真がネットユーザーに発見され、大炎上した。その神社は、日本軍の関係者が祀られている神社だったため、非国民のレッテルを貼られ、瞬く間に芸能界から追放された。足を運んだことが発覚すると、すべての仕事を失う場所があるのだ。
 
もしも、日本の芸能人がアメリカの科学博物館「エクスプロラトリウム」(注:原爆開発に携わったオッペンハイマーの親族が設立に関わった)にいる写真が拡散されて、愛国に反する行動で全ての仕事を失う…みたいなリスクがあったのなら、芸能界で働くのはものすご~く息が詰まりそう。

 芸能界だけでなく文学界でも、ネット民による大炎上は記憶に新しい。『「武漢日記」が消された日―中国から始まったある言論弾圧』(河出書房新社)では、コロナウイルスが拡大していく様子をリアルに描写していた作家と、その作家を支持する人が苛烈な誹謗中傷にさらされた様子がつづられる。同著の翻訳を担当したアメリカ人にまで誹謗中傷が殺到した経緯も描かれていた。
 
大陸のインターネット空間に存在するフィルターバブルは、シャボン液ではなく、反響力の高い頑丈な素材でできており、なおかつバブルの規模が大きい。過激な言葉を書き込むが少数派だとして、人口14億人の少数派は数が多いのだ。
 
こんな背景から、芸能人の投稿に党利党略が垣間見えると複雑な気持ちになることがある。トップ俳優を使った国威発揚的なドラマや映画を目の当りにすると「うーむ」と感じることもある。
  
中国の文化芸能が政治の影響を受けているのは自明だから、「芸能と政治は別物だ」とも言い切れない。

そういえば、少し前、日本のポップカルチャーを愛する俳優が、weiboに鳥山明氏の追悼文を投稿していた。翻訳ツールを使って読んでも愛にあふれる名文だった。その俳優は、歴史的な1日に他の俳優たちと同じ投稿をしていなかった。香港出身だからかもしれないが、これがきっかけで干されたりしないだろうかとかえって不安になってしまった。
 
今後、もし中国ドラマが日本で大ヒットしても、人気俳優がドラマの宣伝のために日本にやってきて「日本の文化が好きです」と語ることはないだろう。もしも「日本のラーメンが、おいしいです」と言えば「ラーメンは我が国の発祥だ」とかいいがかりをつける人だっているかもしれない。それほど、一部のインターネット民を刺激する地雷キーワードはどこにあるかわからないのだ。
 
そんなわけで、中国ドラマを純粋に楽しむには、ノイズが多すぎる。でも、現地には、たくさんの制限の中で良質なドラマを作り、心を揺さぶる演技をする俳優も少なくない。近くて遠い国を知るべく、モヤモヤしながらもドラマを視聴していく。

 


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