アルバム「離婚伝説」を曲順に聞いたら、極上の「恋愛小説」だった!
人気急上昇中の2人組バンド『離婚伝説』のアルバム『離婚伝説』。
歌詞に耳を傾けて曲順に聞くと、一編の物語が浮かび上がってくる。
章ごとに男女の視点が入れ替わる、恋愛小説のような構成になっているのだ。
物語の主人公は、刺激の多いメルヘン的な非日常世界を好む彼と、日常生活で変わらぬ愛を求める彼女。
そんな2人が恋に落ち、思いを通わせた後は、どうなるのだろうか?
サブスクでシャッフル再生していたときには癒し系ソングだった曲が、物語に組み込まれると「恋人がこれ言ってたら、ホラーやん……」の印象に変わる曲もある。
以下、私の主観をたっぷりまじえて、それぞれの曲を恋愛軸で解説していく。
1.愛が一層メロウ
恋の始まり。2人の視線が絡んだら鼓動が高鳴るドラマティックな恋の高揚期。愛を成熟させずに、恋の曖昧なステージのままでもいいかも、という思惑も見え隠れする。
2.あらわれないで
女性目線の歌詞。あやふやな男性の態度に振り回され、自分の前に「現れないで」と突き放しながら、安定した関係に進むことを望む。彼目線の歌詞には「夢」「メルヘン」「おとぎ話」といったキーワードが出てくるが、この歌詞から彼女は恋愛に夢もおとぎ話も求めていないことがわかる。
3.追憶のフロマージュ
男性目線の歌詞。彼女(ハニー)の不安を受け止めて、強く抱きしめて2人の関係は一層メロウ(深く)に。
4.眩しい、眩しすぎる
思いが通った2人が真夏のデート。彼は、はしゃぐ彼女をまぶしげに見つめる。不安になりがちな彼女の笑顔が増え、少し安定した関係に。おそらく、この時が、恋の絶頂期。
5.萌
季節が1つ進み、秋が迫る。彼女は彼を愛し始め、彼に抱きしめられているときにこのうえない幸せを感じる。歌詞に出てくる彼女の「夢」は、幸せな日常が続くことであり、彼の夢とは齟齬がある。
6.スパンコールの女
恋愛関係の曲がり角。2人の関係が揺らぐ予感がよぎるが、深く考えることを止めて、今この瞬間を楽しく過ごしたいと思う。
7.また旅に誘われて
彼目線の歌詞。とうとう距離を置いた2人。彼女から突き放された彼が、折に触れて彼女と楽しく過ごした日々を思い出す。「2人で落ち着きたい」よりも「2人で遊んでいたい」気持ちが勝っている風まかせな彼に、彼女は業を煮やしたのだと思われる。
8.You Should Know Your Love
彼女目線の歌詞。彼と距離を置いたものの、まだ後ろ髪を引かれている彼女。彼を好きなのに、どうしても折り合えない部分がある。元の関係に戻っても、また同じことの繰り返しになることは目に見えている。思いを断ち切るために、あいまいな関係はやめて、けじめをつけるべくきっぱり別れたいと願う。
9.さらまっぽ
彼は、ぶらりと旅に出る。大事なものはいつかなくなるし、悲しんでいても仕方ないから、日常にいなくなった人やモノのことは深く考えずに、身近な人たちと今を遊んで楽しんでいようと思う。彼との関係性に耐えられなかった一途な彼女の目には、彼のこういう言動が能天気にうつったのかもしれない。
10.メルヘンを捨てないで
彼目線の歌詞。恋の始まり(『愛が一層メロウ』のとき)に、夢見たおとぎ話の続きはついえた。彼は、いつまでも、非日常の中でアドレナリンに突き動かされ、メルヘンの世界に浸っていたい。気が向いたらしゃれた服を着て、セクシーな下着を身に着けてドラマティックな非日常を一緒に謳歌しようよ、という変わらぬスタンスの彼。きっと彼女は二度と戻ってこないだろう。
――以上、私の主観と妄想を交えて、アルバム『離婚伝説』を恋愛を軸に解説してみた。
ボーカルの松田歩は、アルバムリリース時のインタビューの中で、男性目線と女性目線の歌詞を書いていると語り、作詞には自身の恋愛経験も活かされているという。
優れた歌唱力や演奏スキル、耳に残るフレーズが注目を集めがちだが、連載小説のような作詞スキルが素晴らしいので、ぜひ、歌詞にも着目してみてほしい。
1組のカップルの恋愛の始まりから終わりを追体験する物語として、ものすごくよくできている。
アルバムはシャッフル再生せず、曲順に再生することをお勧めしたい。