Rina Sawayamaの新アルバム『Hold The Girl』の歌詞はもはや文学
「脳天直撃のサウンドは増えたが、涙腺直撃の歌詞は減った」
と、よく思う。
たぶん私が年をとったからだろう。
一度聞くと脳の中をぐるぐる回るような緻密な音作りによく感動しているが、言葉の音と響きが重視されるようになって含蓄や物語性のある歌詞に遭遇する機会は減った。
そのような潮流の中で、Rina Sawayamaがつむぐ歌詞が胸に迫る。
短いフレーズの中に濃密な情念や理念をぶっこむ日本の短歌のような言葉の強さがあり、毎度、歌詞が心を揺さぶってくる。
彼女の曲を聞き始めたのは、『Chosen family』の頃から。
疎外感を抱えてさまよっていた人(おそらく性的マイノリティ)が「ある居場所」にたどりついた設定でその曲は始まる。
当時、私は自分の地域内で起きた虐待案件を耳にはさみ、家族について深く考えるようになっていた。
たとえ同じ名字と遺伝子を共有していなくても、孤独を持ちより、記念日を祝い合い、支え合い、共感を交わす居場所があればよいのに……と思っていたから、「Chosen family」の歌詞はモロに涙腺を直撃してきた。
そして、 9月に発表された新アルバム『Hold the girl』も傑作だ。
すでにMVが発表されているのは、こちら。
★『Hold the girl』
表題曲。過去の苦悩や消したい記憶を真空パックの中に「封印」するのではなく、過去と対峙し、受け入れ、愛せよと説く。
★『Catch me in the air』
「母親の愛」という「檻」の中で、安住と自立とのはざまでせめぎ合いながら、共依存状態を脱し、翼を広げ飛び立つ。母親のもとを離れ、自分の羽根ではばたく自分を母はきちんと愛していてくれている、という確信さえ感じられる。
★『This hell』
自分らしくいようとする人への針のような眼差しが飛び交う場所を「地獄」と呼ぶ。私がRina Sawayamaの曲を勝手に解釈し、勝手に物語を作って感情移入することにも罪悪感を抱かせる曲。
Rina Sawayamaの歌詞からは「最も個人的なことが、最もクリエイティブなこと」という言葉を連想する。
憎しみと分断が伝染病のように広がるこの世界で、「ゆるふわな歌詞」ではなく、「地獄」で火中の栗を拾うかのようなテーマを扱っている彼女には、さらなる深みが隠されていると思う。