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sparrow tearsの読書

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#文藝春秋

【読書感想文】村田沙耶香の『信仰』があぶりだした「とあるカルト」のカテゴリ

 カルトという言葉に苦手意識がある方は多いと思うが、英語の「cult」は多義語である。   「閉鎖的な新興宗教集団」の他に、「流行」「熱狂的支持」「狂信的な崇拝」「礼賛」「祭儀」などの意味も含む。   つまり、「祭礼」から「やや日常」まで広い場面を覆う言葉なのだ。   村田沙耶香の短編集『信仰』‎(文藝春秋)に収録されている表題作は、そのあたりをものすごくうまく突いていて、思わず「うわっ、そうきたか!」と声が出た。   登場人物は「カルトで金もうけしようとしている人」「金を搾

柚木麻子の『エルゴと不倫鮨』が「最高に美味な鮨体験」をアップデートしてきた

 柚木麻子の小説を読んでいると、どうしようもなくお腹が空く。   「あぁ、今からすぐに家を飛び出して、ちょっといい店でうまいもん食いてぇ!」 という気持ちを駆り立てられる。   新刊の『ついでにジェントルメン』(文藝春秋)に収録された『エルゴと不倫鮨』を読んで、素晴らしい鮨体験をしたので、ここに書き残しておく。   ■『その手をにぎりたい』から『エルゴと不倫鮨』へ これまで彼女の“鮨小説“の代表作と言えば『その手をにぎりたい』(小学館)だったと思う。一等地の高級鮨屋と職