【SPARKLE スイーツ法務の事件簿】ケーキかビスケットか?-ジャファケーキ事件(英国)
本連載は、スイーツに関する古今東西の興味深い事件を取り上げるコラムです。
今回は、イギリスの定番スイーツがケーキなのかビスケットなのかが争われた事件(United Biscuits (UK) Ltd (No.2) [1991] BVC 818)を紹介します。イギリスの付加価値税(VAT)は、ケーキが0%なのに対し、ビスケットは15%のため、英国歳入関税局は「ビスケット」と認定して課税しました。これに対して、販売会社が「ケーキ」であると不服申立てを行い、申立てを認められた事例となります。
1.今回のスイーツ
イギリス人は、紅茶を飲む時に、ビスケットを浸して食べることが多く、そのことを「ダンキング(Dunking)」と言うのだそうです。
そんなイギリス人に好きなビスケットを聞くと、トップ争いをする定番スイーツが、今回紹介するジャファケーキ(マクビティーズ社)です。
チョコレートとオレンジのジャム、スポンジ生地の三層でできており、毎年10億個以上販売されているようです。
2.事件の背景・経緯
シェイクスピアのハムレットの名台詞と言えば、"To be or not to be, that is the question."です。そんなシェイクスピアを生んだ英国で、1991年、ジャファケーキはケーキなのか、ビスケットでないのかがまさに争点となりました。
原因となったのは、英国歳入関税局によるジャファケーキへの課税についての判断でした。
英国には、日本の消費税に当たるVATが存在し、ほとんどの商品やサービスに賦課されます(当時:15%)。他方、日用食品等の一部の生活必需品等には、付加価値税を課されません。ジャファケーキは、事件以前まで「ケーキ」であるとして、VATを賦課されていませんでした。
しかし、英国歳入関税局は、ジャファケーキを「ケーキ」ではなく、実質的には「(チョコレートで覆われた)ビスケット」であるとして、標準税率の15%を賦課しようとしました。菓子類についての条項は、1988年の財務省令により全面改正されたものであり、当局は、シリアルバーに標準税率を課す等、菓子製品に対する軽減措置の適用範囲を狭める動きを強めていました。
このような当局の課税の動きに対して、ジャファケーキを販売するマクビティーズ社がまぎれもない「ケーキ」であると主張したのです。
3.法的論点・判示
英国の不服審判所は、ケーキやビスケットを含む菓子について相応の知識を持ち、製造、材料、その他の特徴についてある程度の知識を得ている通常人を判断基準とするとした上で、商品の以下の諸要素を考慮して、ジャファケーキは一般的にケーキとビスケットの両方の特徴を持つと認定しました。
そして、VAT法別表5の「ケーキ」として認められる十分な特徴を持つこと、そのため、「ビスケット」ではない旨を述べました(United Biscuits (UK) Ltd (No.2) [1991] BVC 818)。
4.さいごに
結局、従前どおり、ジャファケーキは「ケーキ」ということになり、ゼロ税率が適用されました。現在、マクビティーズ社のWEBサイトでも、ジャファケーキをケーキとして取り扱っています。
今回の事件のように、スイーツか否かやスイーツの分類についての法的紛争は、課税制度に関わることが多いため、実は珍しいものではありません。例えば、アメリカでは、「トマトは、果物か野菜か」が争われています(結論:野菜)。
後日、ジャファケーキの類似商品が日本で手に入ったため、実際に食べてみました。見た目以上にかなりしっとりしており、ケーキっぽさを感じました。そのためか、スパークル法律事務所内でアンケートを取ったところ、約2/3のメンバーはケーキ派、残り1/3のメンバーがビスケット派となりました。お近くのスーパーマーケット等のお店で手に入った場合は、ぜひお試しください。