見出し画像

【SPARKLE スイーツ法務の事件簿】混同しやすい?商標登録-ひよこ違い事件

 こんにちは。スパーくまです!本連載は、スイーツに関する古今東西の興味深い事件を取り上げるコラムです。

 今回は、平成中盤にかけて起きた日清チキンラーメンのマスコットキャラクターである「ひよこちゃん」と、福岡県のひよ子本舗吉野堂が製造した「名菓ひよ子」の商標をめぐる事件(東京高判平成16年9月16日平成16年(行ケ)第18号)を紹介いたします。

ひよこちゃん(左)と名菓ひよ子(右)

ひよこちゃん
・登録番号:第4957397号
・出願日:平成10(1998)年 5月 20日
・登録日:平成18(2006)年 6月 2日
・商品・役務区分、指定商品・指定役務:即席中華そばのめん

ひよ子
・登録番号:第524914号
・出願日:昭和32(1957)年 6月 4日
・登録日:昭和33(1958)年8月1日
・商品・役務区分、指定商品・指定役務:菓子(甘栗・甘酒・氷砂糖・みつまめ・ゆであずきを除く。)等

 争点は、日清チキンラーメンの「ひよこちゃん」と菓子の「ひよ子」が類似する商標であって、何らかの関係がある商品であるかのように、商品の出所に混同を生じさせるおそれがあるか否かでした。

 結論として、日清チキンラーメンの「ひよこちゃん」と菓子の「ひよ子」は、明瞭に区別ができる食品であり、一般消費者が両者に何らかの関係をもつものと混同するおそれがあるとみることはできないとして、日清食品の請求が認められました


1.今回のスイーツ

 ひよ子は、1912年に福岡県飯塚市の吉野堂で生まれた、ひよこのお菓子です。

 中の黄味餡は、身の詰まった隠元豆を使用しており、香ばしい皮と餡がなじんで、やさしい甘さと食感を生んでいます。愛らしい形は、食べるのをもったいないと感じさせてしまうほどです。
 スパークル法律事務所の所内会議の際にも、ひよ子が見えた瞬間、かわいい!と思わず感嘆する声があがりました。

 1966年には、東京駅の八重洲口地下商店街に直営店がオープンされ、やがて全国で親しまれる「名菓」となりました。

 お饅頭は、焼き上げると下の部分が少し膨れ上がるのですが(「ダレる」と職人さんは呼ぶそうです)、「名菓ひよ子」のふっくらとした姿は、その特性を生かしつつ、均一に焼き上げるために考え抜かれた形だそうです。

2.事件の背景・経緯

 原告である日清食品(X)は、「ひよこちゃん」(本願商標)について、指定商品を第30類「即席中華そばのめん」として、商標登録出願をしましたが、拒絶査定を受けました。Xは、この拒絶査定に対して、不服審判を請求したところ、特許庁(Y)は、以下の理由で「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしました(不服2001-7911号事件)。そこで、XはYに対して、この審決の取消しを求める訴えを東京高裁(知財高裁・第1審)に提起しました。

■不服2001-7911号事件(拒絶査定不服審判)
本願商標は、登録第524914号の商標権者である株式会社ひよ子が、商品「菓子」に使用する「ひよ子」の文字から成る登録商標……と類似する商標であって、……商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるから、商標法4条1項15号に該当する

商標法
(商標登録を受けることができない商標)
第4条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない
15 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第10号から前号までに掲げるものを除く。)

昭和34年法律第127号

 争点となったのは、「ひよこちゃん」は、「ひよ子」と混同を生ずるおそれがある商標であるか否かという点です。

3.法的論点・判示

 東京高裁は、「混同を生ずるおそれ」を審決のように商標のみの比較をするべきではないと示しました。

商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである(最判平12・7・11民集54巻6号1848頁)。

 そして、まず、本願商標と引用商標の類似性について、以下のように示しました。

本願商標と引用商標とは、……商標のみを比較した場合は、互いに類似する商標であると認められる。
 ただし、……引用商標の「ひよ子」は、普通名詞の「ひよこ」の「こ」を「子」としただけであり、また、本願商標の「ひよこちゃん」も、普通名詞の「ひよこ」に「ちゃん」を付しただけの商標であるから、いずれも普通名詞の「ひよこ」と類似するものであって、独創的な商標ということはできず、その商標としての自他識別力は本来的に弱いものである。 

 次に、引用商標の周知・著名性及び独創性の程度について、以下のように示しました。

引用商標は、上記のとおり、普通名詞の「ひよこ」と類似するものであり、独創的な商標ではなく、その商標としての自他識別力は弱いものであるから、その周知性は、主として土産物あるいは贈答品に頻繁に利用される、ひよこの形をしたお菓子という商品と密接に結合して形成されたものであり、いわば、当該商品を連想させる商標として、周知著名であったものであると認められる

 そして、本願商標の指定商品と引用商標に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、取引者、需要者の共通性並びに取引の実情について、以下のように示しました。

引用商標が使用されている「ひよ子の形をしたお菓子」は、……お土産品・贈答品として食することが多いお菓子であって、日常的に食される「即席中華そばのめん」とは相当に異なる食品
……
販売店あるいは販売場所を異にするものであり、共に「食品売場」で一緒に取り扱われるものではない。
……
以上からすれば、引用商標が使用されている「ひよ子の形をしたお菓子」と本願商標に係る「即席中華そばのめん」とは、……両者は、商品の性質、用途、目的が異なり、一般の消費者により明りょうに区別される商品であるということができる。

 結論として、裁判所は、以下のように述べて、原告の請求を認めました

「即席中華そばのめん」に本願商標を使用しても、その取引者及び需要者である一般消費者が、同商品を、引用商標「ひよ子」の業務主体又は同社と何らかの関係にある者の業務に係るものと混同するおそれがあるとみることはできない

4.さいごに

 商標が類似することを理由に、引用商標との出所混同のおそれあり、と端的に判断するのではなく、商標以外の商品の性質や用途、目的等さまざまな要素を加味して総合考慮をしている点が、興味深いですね。

 かわいい動物や空想上の生物だと、商標にしている企業が複数あることは珍しいことではありません。

 「くま」をモチーフとして使っている企業や自治体を思い浮かべると、皆さんは、いくつ思いつくでしょうか。犬や猫の次に多いかもしれません。


文責:スパークル法律事務所
連絡先:TEL 03-6260-7155/info@sparkle.legal
本記事は、個別案件について法的助言を目的とするものではありません。
具体的案件については、当該案件の個別の状況に応じて、弁護士にご相談いただきますようお願い申し上げます。
取り上げてほしいテーマなど、皆様の忌憚ないご意見・ご要望をお寄せください。