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詩人の条件

詩人と呼ばれるために一番何が重要か、君はご存知だろうか。ワードのセンス。読書量。霊感。エドガー・アラン・ポー全集。憤怒。悲恋。死への耐えがたい誘惑。まあ色々思い浮かぶでしょうが。パッと思いつくそれらは全部重要とはいえない。重要なのは「散歩」である。散歩というのは右足と左足を交互に前に出して身体を傾斜させつつ、あらゆる場所へ向かうことの総称である。散歩をすれば詩人になれる。逆にいえば、散歩をしなければ詩人にはなれない。AI(人工知能)は詩を作ることは可能だけど散歩をすることが不可能なので、詩人になることはできない。例え足がなくても車椅子に乗ったり手で這って行けば散歩はできる。重要なのは散歩をすることだ。逍遥というやつだ。これで得たエクスペリエンスを血肉に変換してレベルをあげる。レベルが上がると当然色々な恩恵を異次元の存在から受けることになる。女殺しの能力。万引きの能力。2級相当の簿記力。木の枝で堤防を作れるようになるビーバー力。弾丸を避けれるようになるマトリックス力。など枚挙にいとまもないくらい様々に得られる能力の中に当たり前だが酔いどれの詩人力も存在する。詩人になりたければ散歩をすればいい。ただ外は寒いし、命の危険もある。詩人もつらいよと寅さんも言うかもしれない。幸いにして君の街はロシア軍やイスラエル軍の砲撃や巡航ミサイル攻撃を受けているわけではないし、軍事衛星に監視されていることもなければ、そこかしこに地雷が埋まっているわけではないから暖かい格好をすれば良いのだ。厚手の外套と雨や雪が染みることのないブーツがあれば、もう君も今日から詩人を名乗れる寸法だ。さあ詩作の開始だ。私は通称緑の布団と呼ばれる外套を着て外に出る。途方もない距離を歩ければ、その分詩人として箔がつくというものだ。いちにいちに。私の血は沸騰する。いちにいちに。笛を吹き太鼓を鳴らす兎の人形がリズムを刻む。いちにいちに。ピッピ。ピッピ。トントントントン。ピッピ。ピッピ。トントン。ツートン。ツー。ツー。トントン。トンツートン。臆。降りてきたぞ。もう直ぐだ。私は偉大なる存在、マトリックスの向こう側からのインスピレーションをビンビン感じる。ペケペケ地方、午前2時、詩は時雨のように降るでしょう。そうして真夜中に散歩していた私であるが自宅のある高井戸を出発し千歳船橋駅付近を通過中に物凄い速度で走ってきて急停車した黒いバンを観た。黒いバンからは屈強そうな体格をした男たちが4人ほど素早く出てきた。私はサッと物陰に隠れてその男たちの様子を観察する。男たちは深夜の千歳船橋駅前にいた黒い影の人物の頭に布のような物を被せてから手早く4人で担ぎ上げ抵抗するような素振りを見せる影の人物をあっという間に黒いバンに載せてから急発進をして車は去っていったのである。私は観た。人が拉致される瞬間を。深夜に散歩をしたお陰で、私は見てはいけないものを見たのだった。当然、パパパパッパーというファンファーレが鳴って私がレベルアップしたことが告げられる。パラメータボーナスが加算され、最後に何某かの特殊能力を得るのだ。私が得たのは一番欲しい「詩人の能力」ではなく「女殺しの能力」だった。なんたることだ。私はいまだ詩人ではない。億劫なので散歩はほぼ廃業した。今はAI(人工知能)があるので詩人になるには「彼」の助けがありさえすればいい。それと清潔で明るい場所があれば何も言うことはない。さあ、ナダで乾杯だ。世界中の詩人たちに、幸アランことを。

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