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知っておくべき!初めての脳死ドナー移植で起こったこと

1997年の臓器移植法案成立後、我が国で初めて法律に基づいて行われた「脳死者」からの臓器摘出は1999年、「高知赤十字病院移植」である。


くも膜下出血により、脳死判定を受けた女性の心臓、肝臓、腎臓が摘出され、大阪、長野、仙台で移植を待つレシピエントに対して移植が行われたのだ。


今から、四半世紀も前のことだが当時センセーショナルに報道され、摘出された臓器を積んだヘリコプターが病院の屋上から飛び立つ映像を見た記憶がある。


この日の30年前に起こった「和田移植」がダークなイメージが拭えないのに対して、新たな法律の下公明正大に行われた移植手術を賛美する雰囲気がただよっていた。


果たして、合法的な「脳死」という新たな死の概念は、「和田移植」の反省を踏まえたものであったのかを検証してみたい。


高知赤十字病院脳死者臓器摘出施術からの学び


「脳死」の結果を煽る異様なマスコミ報道


まず、この件に関しては脳死判定の前に、脳死となる可能性の状態となった女性が、ドナーとなる意志を持っていたことから、脳死判定が行われる可能性をN H Kが、具体的な病院名と共にニュース報道を流した。


このため、150名を超える報道関係者が、高知赤十字病院に集まり、全国報道を始めたため、日本中がこの患者の「脳死」を待ち侘びるといったおかしな構図となった。


1度目の脳死判定は、脳死状態と認めたとの報道に世間は熱気立つ、しかし2度目の判定で脳波が認められ、脳死判定は持ち越しになった。その報道に落胆しつつも次の判定結果を期待しつつ待つといった異常さがあった。


原稿を書きながら不適切な表現に我ながら嫌になるのが、間違いなくあの時、全国では歪んだ心理があったことは確かだと思う。

そして、今から思えば、、もしかしたらこういった心理が医療現場でも働いてはいなかっただろうかという心配も持てるのだ。

そして、その可能性を感じさせる事実が、摘出手術が終わった後で噴出することになる。


繰り返される脳死判定の危うさ


脳死判定として採用される「竹内基準」と呼ばれる判定方法は、法律で定められた次の手順で行う。

一「深い昏睡にあること」

二「瞳孔が固定し一定以上開いていること」

三「刺激に対する脳幹の反射がないこと」

四「脳波が平坦であること」

五「自分の力で呼吸ができないこと」

六「これらの5項目を行い、6時間以上経過した後に同じ一連の検査をすること」

上記の法的テストを行う前に、臨床テストとして1番から4番を実施し、脳死の可能性が高いと判断されてから、改めて法的根拠となる上記テストを1番から行わなければならない。

しかし、臨床判定段階では行ってはならない5番目の無呼吸判定を行なっていたのである


「自分の力で呼吸ができないこと」を判定するには、呼吸器を外して自力呼吸が可能かを測定しなければならない危険なテストなのだ。

装置を外す前に十分な酸素を血中に供給して行われるが、それでも不整脈や血圧の低下を生じる恐れがある。

また血中酸素が十分であっても脳に酸素が十分供給できない状態になるなど、脳にダメージを与える可能性があるからだ。


法定判定を行う前の臨床判定で、無呼吸テストを行わないのはこのためなのだ。


複数回の臨床判定で無呼吸テストを行い、その内1度は脳波が認められている。結局、脳死の可能性を認めたため、その後2回の法定テストが行われた。

つまり、正式な脳死判定までに危険な無呼吸テストを何回も行ったのだ。このことによる患者のダメージは決して小さいものではなく、無呼吸テストによって脳死となる可能性がないとは言えない。

さらに、大きな問題がある。

それは、脳死判定テストで行うテストの順番を間違えて行っていたという事実だ。

先にも挙げた通り、無呼吸テストは危険であるため予備的な位置付けの臨床判定では①から④を行うのだが、終始この無呼吸テストを2番目に行っていたのだ。

このため、本来先に行うべき2番目から4番目のテストに影響を及ぼした可能性もある。


さらに、脳死判定に使う計測器が正しくセットされず使われていたこともわかったのである。


脳死判定の今後の課題

脳死判定を行い、臓器移植が行えるのは指定病院でなければならないが、指定病院でありながら、そのための研修や、ロールプレイングが十分でなかったのではないかと考えられる。


他の先進国と比べて、実数が少ないとはいえ、臓器移植を希望する者がいる限り実施される数は増えていくのだろう。


であれば、従来の脳死判定(竹内基準)に改定の必要性はないのかは追求し続ける姿勢と、あくまでもドナーになる前に、患者の救命救助が第一であること、それらを踏まえて、熟練した医療体制の構築に力を注いでほしい。

今から、23年前の日本で初めて行われた合法的脳死判定の話である。先日国内で、1,000事例目の脳死判定者による臓器提供が行われた。

経験を積むことで、その精度は上がっているきているものと信じたい。

そして、臓器移植が当たり前の時代になるからこそ、我々は他人事ととしてではなく、この問題に向き合わなければならない。



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