"邪道"カミーノ。-スペイン巡礼の変わり者-
「僕は巡礼者じゃないんだ。」
歩きながら、僕は何度も自分に言い聞かせていました。
これは、コミュ障かつパーソナルスペース広めな僕が、終始1人でサンティアゴ巡礼路の「フランス人の道」を160km歩いた時の物語です。
スペインのサンティアゴ巡礼と聞くと、皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか。
大きなバックパックを背負い、何日もかけて数百キロを歩く。
他の巡礼者たちと顔を合わせるうちに仲良くなり、色んな価値観や文化に触れる。
陽気な地元の人たちに出会い、交流する。
幾多の困難を乗り越えてサンティアゴ大聖堂に着いた時は、仲間達と喜びを分かち合う・・・
僕が事前に巡礼路について調べていた時も、そんなブログをたくさん見かけました。
僕は別に、そんな〝巡礼〟はするつもりはありませんでした。
僕は多くの巡礼者がたどる「ノーマル」から完全に逸脱し、1人で黙々と歩き続ける文字通り「邪道」な歩き方をしたのです。
今回の記事では、僕が2021年7月から11月にかけて行ったサンティアゴ巡礼路の"邪道"な巡礼についてご紹介したいと思います。
■ "邪道"カミーノ 〜旅の目的編〜
僕がこの道を歩こうと思ったのは、熊野古道と姉妹道であるサンティアゴ巡礼路のこと、和歌山とゆかりの深いガリシア州のことをローカルに知りたいと思ったからで、よくスペイン巡礼をした人が話すような、何か強いきっかけがあったわけではありません。
だから歩くのもガリシア州の部分だけで十分だったし、体力に自信がない僕は全区間を一気に歩き通そうなんて気も全くありませんでした。
連続して歩くのは3日間までと決め、行程もかなり余裕を持って組みました。
ルールは一つ、それぞれの町で写真を撮ること。後にSNSで紹介するために、時折メモを取りながら歩きました。
こうして幾つかの週末を利用した、サンティアゴ巡礼路の「視察」が始まったのです。
■ "邪道"カミーノ 〜宿泊編〜
サンティアゴ巡礼路を歩くにあたって、重要なのが宿です。ほとんどの巡礼者は、巡礼者向けの宿・アルベルゲに宿泊します。
予約は必要なく、ベッドが空いていれば泊まれる仕組みで、大部屋だったり二段ベッドになっているのが一般的です。
しかしパーソナルスペース広めな僕にとっては、知らない誰かと同じ部屋で寝るなんて苦痛でしかなく、そもそもコロナの感染のリスクもあるし、大部屋で泊まるのは絶対に避けようと思いました。
そこで、あろうことかBooking.comを使い、事前に個室の部屋を予約しておくという方法を取ったのです。
チェックイン後は、撮った写真を整理したり、SNS用のコメントを書いたりと、誰とも喋ることなく1人で部屋で過ごしました。
■ "邪道"カミーノ 〜時間帯編〜
多くの巡礼者は、まだ夜も明けないうちから起きて、早朝に巡礼を開始します。
気温が上がる昼間に歩くのを避けるためでもありますが、アルベルゲへの宿泊は早い者勝ちなので、宿泊予定の町に早く着くためというのもあるそうです。
しかし、事前にホテルを予約している僕にとっては全くの無関係。朝はのんびりしたいので、大体10時とか11時くらいに出発していました。
こうして他の巡礼者たちと行動時間がずれたことにより、ほぼ全ての行程を1人で歩くことになったのです。
■ "邪道"カミーノ 〜魔法の言葉編〜
先ほど「ほぼ全ての」と書きましたが、さすがは世界的な巡礼路。
誰かと会話をしないといけないタイミングが至る所でやってきます。(そういう時くらい会話しろよって話ですが)
前を歩いている人を見つけた時は、手前で休憩を挟んだり、頑張ってペースを上げて抜かしたりして、何とかやり過ごしていました。
しかし一度だけ、その戦略が通用しない場面に遭遇します。
なんといきなり、後ろから来た巡礼者に話しかけられたのです!!
彼はヨーロッパ風の顔立ちをした同い年くらいの金髪の青年で、さすがの僕も声をかけられてスルーするわけにはいかず、挨拶し返しました。
すると彼は名前を聞いてきたので、(世間話もなしにいきなり名前聞くのは失礼だな)と心の中で思いつつ、僕は自分の名前を伝えました。
ただ彼にとって日本人の名前は馴染みがなかったらしく、あまりピンときていなかったようで、一瞬間が空きます。
何か喋らないといけないと思った僕は、ついあの言葉を言ってしまったのです。
「ブエンカミーノ!」(良い旅を!)
会話のキャッチボール2ターン目でいきなりお見送りの言葉を言われてしまった彼は、少し戸惑いながらも僕を追い抜いて行きました。(本当にごめんなさい)
だ、だって、僕と一緒にいたら写真撮ったりしてペース遅いし、、、
僕は泊まるところあるけど、君は多分急がないといけないし、、、
と心の中で言い訳をしながら、1人歩き続けたのでした。
(※良い子はマネしないでね!)
■ "邪道"カミーノ 〜旅を終えて〜
こうして終始1人で歩き続けた"フランス人の道"。
合計7日間、3つの週末に休暇を組み合わせたりして巡礼路を歩き、無事サンティアゴ・デ・コンポステーラに到達することができました。
熊野古道の雰囲気と比べながら歩けたのでとてもよかったです。
サンティアゴ巡礼では、「カミーノでは、誰も誰かを裁くことはできない」という言葉があるそうです。
巡礼路を歩く人にはそれぞれの目的があり、それぞれの巡礼の方法があり、誰も他の人の巡礼を否定できないというもの。
その考えに従えば、僕の"邪道"カミーノも、数ある巡礼の一つになるんじゃないかと思いました。(なんと自分勝手な)
もちろん僕自身も、冒頭で述べたような一般的な巡礼の形を否定するつもりはありません。
色んな人との交流を通じて世界を知るのは楽しいでしょうし、人生を変えるような出会いもあるかもしれない。
仲間と目標を達成した喜びは何物にも替えがたいでしょう。
ただ僕も彼らも、それぞれの道を歩いただけなんです。
皆さんにも、ぜひ自分なりの巡礼を見つけてもらえればと思います。(まとめ)
最後までご覧いただきありがとうございました!
(巡礼中一番美味しかったボロネーゼ)