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消えていく知的資産

第2部 第1章 総論


1.知的資産とは

 前述したように、本書では、単に特許や商標といった「知的財産」だけではなく、自社が保有しているまたは利用可能な人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランドなど、財務諸表には掲載されない目に見えにくい経営資源(経営要素)の総称のことを示す言葉として、知的資産を使用します。

 なぜ、知的資産を考えることが大切なのかといえば、それは、自社が持つポテンシャルを、経営者自らが再認識し、それを、顧客・ユーザー、金融機関、投資家、従業員、就職希望者等に明確に示すために有用なだけでなく、潜在的なリスクの発見や事業承継にも重要な役割を果たすからです。

2.使用される名称

 序論でもふれましたが、何が知的資産なのかと、無形の資産をどう呼ぶのかということについても不動のものがあるわけではなく、論者により、またその論者がどんな分野を意図しているかにより多くの呼び方が使われています。
 
 例えば、「知的資産」「知的資本」「知的財産」「ナレッジ」「知識資産」「知識資本」「インタンジブルズ」等があります。また同じ言葉に含まれる範囲も論者によって違いがあります。

3.知的資産の分類

知的資産を下記の①~③に区分する方法はヨーロッパで広く採用され定着しつつあり、中小企業基盤整備機構の「知的資産経営マニュアル」にも記載されています。

 ① 人的資産・・・個々の人の知識、コンピテンス、経験、スキル、才能など従業員の退職時に一緒に持ち出す知識。

 ② 構造資産・・・組織的プロセス、データベース、ソフトウェア、マニュアル、トレードマーク、フランチャイズ、特許権、組織の学習能力など従業員の退職時に企業内に残留する知識。

③ 関係資産・・・顧客関係、顧客ロイヤリティと満足、流通関係その他パートナーやステークホルダーとの関係など企業の対外的関係に付随したすべての資源をいう。

 筆者これに、「補完資産」を加えたいと考えます。これは社内外に存在し、ある知的資産と一体化することによって、大きな利益を生み出す可能性が高い資産を言います。
 
 あえて、補完資産を加える意味は、関係資産と言った場合、社内あるいは組織内に蓄えられたもの、あるいは自社が構築したものという意味で、自社が保有しているものという意識が働くように思います。これに対し、補完資産と言った場合は、自社のものでなくても、使用または利用可能なものであれば、他社や他組織のものでよいことを指しています。

 ビルゲイツは、「社内外に存在する目に見えない知的資産や補完資産をいかにすばやく融合させるかが重要である」と述べており、このための他社との連携は、従来から経営者の個人的なでもって行われるのが一般的ですから、この拡大のための異業種交流会はその面で有効であると言われています。

4.消えていく知的資産

 現代の企業に占める無形資産の割合は、企業価値の50%以上に及ぶと言われているにもかかわらず、企業や組織が保有する知的資産の把握は困難です。それはなぜなのかを、会計の考え方から見てみます。

 現在の会計は、工業化社会には適したものでしたが、無形資産の価値が高まった現代企業の価値の把握には、適しているとは言い難くなっています。
しかし、経営者は過去の会計の考え方に強く影響されているので、それが、知的資産の把握をより困難にしていると考えられます。

 そこで、まず現在の会計の考え方と資産の定義を見ることにします。会計では、企業会計が成立するための前提条件(会計公準)として、企業実体の公準(企業に限定)、継続企業の公準(一定期間に限定)、貨幣的評価の公準(貨幣換算できるものに限定)の3つの公準があり、この範囲に限定しています。

 つぎに、資産の定義は、「資産とは、過去の取引または事象の結果として、特定の企業により、取得または支配されている、発生の可能性の高い、将来の経済的便益である」とされており、ここから、知的資産も上記の条件に当てはまるのかどうかが、会計上認識されるべきなのかどうかを考えることになります。
 
 こうして経営者は、毎年度、主に納税目的のため決算書を作成する過程で、決算書に記載するものだけに注意を傾けることになります。
 
 そして、その他のものは、その価値があまり考慮されることはなく、同時にその活用についても不十分になってくると言えます。
 
 つまり、組織の知的資産は、本来であれば価値が高まっているものであるにも係わらず、それを意識せず、評価もしないことから実質的にはないのと同じ状況、死蔵された資産になっているのではないかと考えられます。
 


この記事は、「知的資産経営の実践」大学教育出版 2014年初版
から抜粋・追記して記載しています。データ等は当時のものです。
 

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