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はじめに

「知的資産経営の実践」より

 同じ地理的条件の場所に、同じ大きさの店舗で、席数も従業員数も器の数も同じ2つのラーメン屋さんが同時にオープンしたとします。しばらくして2つのお店の経営状態を比べると、それは同じになるでしょうか、あるいは誰がやっても、この2つのお店の決算書は同じになるでしょうか。
おそらく同じにはならないでしょう。それはなぜなのでしょうか。会計の専門家がこの2つのお店の決算書を比較すると、その答えは分かるのでしょうか。

この答えも簡単だと思います。決算書を見ても分かるのは、経営した結果でしょう。ではこの2つのお店の違いを生み出したものは何でしょうか。これも、すぐに想像がつくように、大きな要因は、ラーメンの味、サービス、お店の雰囲気などです。お店が成功するか否かを決めるのは、立地条件や店舗の大きさだけでなく、こうした内部の要因が重要であることは言うまでもありません。つまり、私たちは、無意識の内に当たり前のこととして、ラーメン屋さんの売上を生み出す重要な要素が、目に見えにくく、決算書などの数字には表れていないものであると理解しているのです。

 こうした決算書(財務諸表)に掲載されない、目に見えにくい経営要素のことを「知的資産」といいます。知的資産には単に特許や商標といった「知的財産」だけではなく、組織が保有している人材、技術、組織力、顧客とのネットワー ク、ブランドなどが含まれます。この知的資産を生かして、経営課題の克服や新しい経営戦略の構築、円滑な事業承継への取り組みなどを行うことを、知的資産経営と言います。

 ではなぜこの知的資産を考えることが重要なのでしょうか。それは、ラーメン屋さんの例から分かるように、決算書に掲載されている資産だけに注目してしまうと、本当はこうした知的資産が非常に重要な経営要素であると感じているにもかかわらず、それを認識しなくなり、結果として、自社の本当の価値を理解できず、それを活かすこともできなくなってしまうからです。
 逆に言えば、もしこの知的資産に対する認識を高めることができれば、自社の潜在的な価値を経営戦略に役立てて、現実の価値を生み出したり、リスクを発見したり、さらには、自社の潜在的な価値を利害関係者に正しく伝えることで、取引に役立てることができるからです。これは、企業でも個人商店でも、個人としての自分自身でも同じだと言えます。

 本書では、まず幕末の備中松山藩(現在の岡山県高梁市)で、わずか8年足らずの間に1,200億円ものお金を生み出し、財政改革に成功した山田方谷(やまだほうこく)の取り組みを、知的資産経営の先駆的成功例としてご紹介した後、経営者やリーダーの方に、どのようにして目に見えにくい知的資産を見つけ、育て、活用していくのかという、知的資産経営に取り組むための、具体的な手法やオリジナルツールとその使い方をご紹介いたします。

 本書は、認識しにくい知的資産経営を多くの方に知って頂くため、できるだけ具体的で取り組みやすいものにするよう心がけています。本書で紹介する山田方谷の改革の取り組みや知的資産経営のツールが、経営戦略構築のため、あるいは経営課題の解決に向けた手がかりとして、経営者・リーダーのみなさまのお役に立てれば幸いに存じます。


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