父の独り言
#大学生〜大学院生
テレビを見ていると父はよく独り言を言う。
例えば、
あるお笑い芸人さんのことをさして
「こいつら全然面白くないね」
和装の女性の髪型をさして
「なんでこんな髪型なんだろう」
と言った具合だ。
大抵の場合、
何故そういうことを思ったのか理解できない事が多いのでぼくは
「なんで?」
と聞き返す。
すると、例えばこのような会話が繰り広げられる。
例1:気に入らないお笑い芸人について
父「こいつら面白くないね」
ぼく「なんで?結構面白くない? M1のファイナリストだし」("こいつら"って失礼な人だな)
父「知らない人たちだもん」
ぼく「まあ知ってる人たちは出る必要もないくらいに売れてるしね」
ぼく「たとえば誰だったら面白いの?」
父「ダウンタウンの松本とかかな」
ぼく「それって、コンビじゃなくて人じゃん。同じ漫才で比べないと意味なくない?」
父「じゃあおもしろいのいない」
ぼく「まじか、じゃあそもそもいまテレビに出てる人たちも面白いかどうか判断できなくない?」
父「いや、こいつらはおもしろくない」
ぼく「いや、それって漫才って形式が嫌いなだけなんじゃないの」
父「そんなことない」
ぼく「じゃあこの人達より好きな漫才コンビいるの?」
父「わかんない」
ぼく「それって例えばクラシック音楽が好きな人間が、ロックを聴いた結果嫌いと言ってるのと大差ないよね」
父「君はなんで、俺の事否定するの?」
ぼく「いやそういうわけじゃなくて、単純に父が好きなものを知りたいだけなんだけど」
父「じゃあそういう言い方はおかしいじゃん」
例2:女性の和装の髪型について
父「なんでこんな髪型なんだろう」
ぼく「なんでってどういうこと?和装ってこういうもんじゃないの」
父「いやだからなんでこんな、変な髪型なんだろうって事」
ぼく「それはきっと、昔は身分の違いがあったからじゃないかね」
父「ぇ、差別?」
ぼく「そういうことじゃなくて、公家みたいな人がいたから、身分や地位を示したい儀式的なイベントの際にお互いに競い合った結果、機能的じゃないこういう髪型が流行ってそれが伝統として残ってるんじゃないのかな。」
父「どういうこと?」
ぼく「例えばヨーロッパでも正装のときはソフトクリームみたいな髪型してるけど、それも身分の違いとか、形式的な儀式があるから生まれたと思うんだけど」
父「じゃアフリカにはないの?」
ぼく「アフリカとかにもきっとあって、身分や地位を表すための身だしなみみたいなのはあるでしょ。」
父「私はこういう髪型に発展したのがなんでかっていうのが気になったの」
ぼく「それは髪質や文化に依る所が大きいんじゃないかな、単純に美的センスの違いもある気がするけど、どうかね。」
父「美的センスの違いだけじゃないとおもうんだけどな。」
ぼく「うん。だから髪質やら気候も関係してるんじゃない?ある程度は機能的な形からの発展のはずだし」
父「私が言ってるのはなんでこういう風に発展したのか気になるの」
ぼく「ん?どういうこと?それってつまり文化の差異がどこで生まれるかってこと?」
父「そういうことじゃない」
ぼく「ぇ、違うの?じゃ何が気になるの?」
父「だから、この髪型がなんで出来たのかってこと」
ぼく「それって、もしかして、僕ら日本人は人間のことを”にんげん”って呼ぶけど、英語圏の人は”human”て呼ぶのは何でだろう的な疑問?」
父「そうかもしんない」
ぼく「まじか。でも、さすがにそれはぜんぜんわかんないね」
ぼく「でも、それってこの髪型だけじゃなくて文化や言葉の違いを見つけたらすべてそういう事になるよね」
父「確かにそうだね!うわほんとだ。」
ぼく「ぇ、その疑問って、今まで生きてきて一回もなかったの?」
父「そうかも」
ぼく「今気づいた感じ」
父「うん気づいちゃった」
ぼく「そっか、今気づいたのか。それが驚きだわ。」
父「ところで君はいつも私の言うことに文句ばっかり言うよね」
という具合に父の独り言を深く掘り下げようとすると、大抵怒らせてしまうので
最近は深く聞いてはいけないこともあると学んだ。
これについては、きっとぼくにも落ち度があるとは思うのだけれど、
毎度怒らなくてもいいのではないかと思う。
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