〝こんぶ〟が生きている!
文・撮影/長尾謙一
今まで知らなかった「昆布だし+酢」の旨みの世界に驚く。
この「こんぶ液」にどうして酢が入っているのか? その理由が分からなかった。しかし、使ってみるとすぐに分かった。酢は、だしの〝旨み〟と〝香り〟を守り、さらに深いコクを与えるのだ。
こんぶ液
(素材のちから第49号より)
「こんぶ液」は、昆布だしに醸造酢を加えている。醸造酢の主成分である酢酸は静菌効果を持つため、昆布のストレートだしを常温流通させるために高温殺菌する必要がない。このため低温殺菌によって独自の方法で煮出した風味高いこだわりのだしを実現するのだ。さらに酢の効果は味わいに深いコクも加える。〝だしの抽出技術〟と〝発酵技術〟の相乗効果が今までになかった高品質な昆布だしを生み出す。
素材のおいしさを昆布の風味が後ろからぐっと持ち上げる。
「こんぶ液」はこれまで、炊飯や調味液(タレ)をつくる際に1〜3%加えて旨みや風味を上げる縁の下の力持ちとして、主に大量調理のシーンで使われてきた。このナチュラルなだしのポテンシャルを外食店の皆さんにも知って欲しい。そこで、「こんぶ液」をイタリア料理店に持ち込んで料理していただき、その感想を伺った。
イカ墨の旨みをこれほどシンプルに強く感じたことはない
最初に「こんぶ液」を味見した時には、昆布の風味がとても濃厚なのにちょっと酸っぱいので、いったいこれは何に使うのだろうと思いました。しかし、酸っぱいのは醸造酢を加えているからなのですね。酢の静菌効果により実現した低温殺菌では、従来の高温殺菌のようにだしの風味を壊さない。だから昆布の風味が凄く自然で濃厚なのですね。
それから酸味の点ですが、「こんぶ液」を料理に使う量は全体の1〜3%くらいですから、料理が酸っぱくなったりはしません。さらに、醸造酢の旨みが加わることでだしの旨みも増します。料理をしてみると分かりますが、素材のおいしさを昆布の風味が後ろからぐっと持ち上げる感じです。こういうものがあるのかと本当に驚きました。
このメニューはイカ墨を練り込んだスパゲッティとホタテ貝柱のソテーの組み合わせです。
ガーリックオイルをつくって、そこに「こんぶ液」を加え、イカ墨を練り込んだスパゲッティを茹でて和えました。スパゲッティを茹でるお湯には1%の塩と「こんぶ液」を加えました。スパゲッティに昆布の味をダブルで入れてみようと思ったのです。
凄くコクが出ましたね。それと嫌味がない。「こんぶ液」がイカ墨のストレートな味を出してくれる感じです。イカ墨の旨みをこれほどシンプルに強く感じたことはないでしょう。
「こんぶ液」は旨みを立体化する
この料理は〝大根の洋風おでん ポルチーニのクリームソース〟です。水と「こんぶ液」、塩でやわらかく煮た大根に、ポルチーニのクリームソースをかけますが、正直にいってこの料理にはびっくりしました。
このソースは、ポルチーニと乳脂肪分40%の生クリーム、それと「こんぶ液」だけでつくったのです。普通ならここに玉ねぎを入れたり、チーズを入れたり、ソースの仕上げにバターを入れたりしますが、これには入れる必要がありません。ポルチーニと「こんぶ液」だけでこんなに味が出るのです。
キノコは三大旨み成分のグアニル酸を持っていて、昆布のグルタミン酸と混ざるとその旨みは数十倍強くなるそうですが、それにしても凄くポルチーニの味が出ています。「こんぶ液」の酸味はもうどこにもなくて、旨みが増して深くまろやかで、やさしい甘みが溢れるというか、すっきりしているのにとてもコクがあります。どうやら「こんぶ液」が旨みを立体化しているようです。
トマトの味が濃くなり酢の旨みも出て全体がまろやかに
次は、ナポリの〝溺れダコ〟(ポルポ・アッフォガート)です。タコを「こんぶ液」と水で茹で、これを「こんぶ液」を加えたトマトソースで煮て仕上げました。
トマトソースにトマトの甘みが出てきます。トマトもキノコのようにグアニル酸を持っていますから、「こんぶ液」と混ざることによって旨みが増します。味も濃くなり酢の旨みも出て全体がまろやかになっています。それから、タコがやわらかくなるんですよ。きっとこれも酢の力なのでしょう。
初めて「こんぶ液」を使いましたが、普段の料理がこれほど変わることに驚かされました。今回はガーリック系、クリーム系、トマト系の温かな料理との相性を探ってみましたが、どの料理も旨みのステージが上がっていて、「昆布だし+酢」の旨みの世界を知りました。
次はカルパッチョなどの冷製の料理もつくってみたいと思います。
(2023年6月30日発行「素材のちから」第49号掲載記事)
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