2022年10月23日時点の意味づけ
3年生の夏期休業がおわりました。進路について考え始めるこの時期に、現時点の関心や最近考えていることを残しておきます。
1 大学生活と学問的関心について
大学生活3回目の夏期休業が終わりを迎え、ようやく秋学期がはじまりました。ほとんどすべての授業が対面形式になり、平日は丸一日大学で過ごすようになりました。ようやく友人ができはじめて、楽しい嬉しい日々です。これぞ思い描いていた大学生活!近頃はゼミ活動が本格化し、先生方との交流も深まっています。そして、社会教育学をメインに扱う先生方の凄味を感じています。
「自分自身も『学習者』」と語る先生方は、「省察的実践者であるわたしの人生」を省察的に過ごしながら、仕事場の大学で展開される「『省察的実践を支援する省察的実践者』を育成する学びの場」(≒社会教育士・社会教育主事の育成講座)のプロフェッショナルとして「省察的実践者を育成する、教員のわたし」を意識し、そのうえで「大学における省察的実践者の育成」について研究と実践を展開しているわけです。何重もの「省察」に耐えるというのは、相当な心労があるのではないか…と思いきや、全くそんなことはないようで、もはや「省察」は職業病とのこと。ちょっと憧れます。まさに行為中の省察を操れる人のなせる業です。しかし、それゆえに先生との距離を感じてしまうことも多々あります。私たち学生は絶好の研究対象だからです。秋学期は、いかに先生と距離を縮めるかが密かな目標となっています。
さて、大学での学問的関心についても少し書いてみます。大学入学当初も現在も、省察という行為に関心があることには変わりありません。ただ、誰の省察を対象とするのか、どの学習現場にフォーカスするのかは大いに変わりました。
一年程前には、成人の意識変容の学習プロセスにおけるリフレクション、とりわけ一人で思考を巡らせる過程に関心がありました。40年以上にわたり意識変容の学習論の中核を担ってきたジャック・メジロ―は、学習者が持っている社会的、文化的な前提や価値観といった準拠枠を問い直す過程が、意識変容をもたらす重要な要素であると述べています。この準拠枠の問い直しに関する思考を、経験や他者と分断された自己の内面で行う営みに興味があったのです。しかし、果たしてこれは社会教育学で扱うべき事柄なのかという疑問が湧きました。社会教育学の範囲で意識変容の学習が取り上げられる場合、学習者の意識変容の有無やタイミング等を調査し、そこから学習者の傾向を掴むことで学習支援者の力量を評価して支援体制を改善しようという試みであることが多いのです。支援者がいない学習現場(人生ぜんたい)における個人的な省察の意義について、社会教育学的視点から言及しても一体何の意義があるか分からないなと思いました。
そこで、一人で思考を巡らせる場面にこだわっていたのをやめ、他者との関わり合いの中で準拠枠に気づき、問い直す過程に着目することにしました。それを扱っているのが、センゲの「学習する組織論」(組織の根本的な変革を起こすには構成員や組織のメンタルモデルを問い直すことが必要であると説いた。)、シャーマーの「U理論」(組織変革のプロセスにおいて自他のメンタルモデルに気づき、受け入れる過程に言及した。)だと思います。これら二つ、そしてメジロ―の変容学習論には、持続的な変容には個人や組織が持つ準拠枠の問い直しが必要であるという考え方が通底しています。特に上記二つの組織学習論は経営学の領域で扱うものと思われがちですが、一人の人間ではなく組織をひとつの学習主体とした変容学習と見ることで、成人学習論の一部と捉えることもできるでしょう。
持続可能な個人・組織・社会が目指される今だからこそ、目の前の個人・組織を今どうやって変革させるか、ではなく、生涯にわたって変革し続けるためのメンタルモデルはいかに獲得させられるか。それを支援する道具や問いかけ、学習環境はどんなものか、支援者にはどんな力量が必要なのか。考える必要があると思うのです。
今後は、企業におけるサステナビリティ研修を学習の場、社員をメインの学習者、外部講師を支援者におき、深いリフレクションとメンタルモデルの問い直しについて考えていくつもりです。もちろん研修プログラムの実践知は多方面で蓄積されているものの、うわべの変革にとどまっていることに疑問を呈している実践者は少なくありません。この状態が続けば、付け焼刃の結果が出ても個人は幸福感を持たない、ということになりかねないのです。
そこで私は、あえて社会教育学の領域で蓄積されてきた生涯学習社会の捉え方、変容学習論、省察的実践論の視点から組織学習について言及することで課題解決に寄与したいと考えています。同時に、労働の分業化により分断され発展してきた専門性の高い組織同士を、省察的実践の志向、メンタルモデルの問い直しという学習観でつなぎ合わせることで、持続可能な社会における本質的な協働が可能になることも示していきたいです。
2 グラレコ関連の活動、そして学問的関心との結び目について
グラレコをはじめてから、早2年半。聞かれない限りあまり言わずにいましたが、2021年10月22日、密かに個人事業主になっていました。ということで、昨日は開業一周年記念日でした。特に「事業化をしたい!!」と熱烈に思っていたわけでは無かったのですが、グラレコ関係の稼ぎを事業所得とした方が色々と都合がよかったのでこのような形をとりました。我ながらなんて風情のない…
屋号は「ナラティヴ・グラフィッカー」です。「グラフィックを用いてナラティヴやシステムを可視化することで、持続可能な組織や個人を支援する」をミッションに活動しています。グラフィック・レコーディング、グラフィック・レポートの制作、グラレコ入門講座の開催を行っています。
夏期休業中は、昨年度に引き続き高崎経済大学さんの特別講義、熊本日日新聞社さん主催 「eスポーツで描く地方の未来~POWER of eSPORTS~」のセッション(機械音痴ゆえに、キャプチャボードの設定とプロクリエイトのアップデートに振り回され、冷や汗かきまくりだったのは秘密)、千代田区主催「ちよだゼロカーボンフォーラム」の学習会にてグラレコを担当しました。基本的にはサステナビリティ推進に関するものが多いのですが、これまで触れたことのない領域を担当することもあります。刺激的で学び多い機会をいただけることに感謝の気持ちでいっぱいです。この他アルバイト先では時々グラレコ入門講座を実施しており、グラレコとは何かについて定期的に問い直す機会となっています。
最近は、グラレコについてお話する機会もいただきました。その際、大学での関心事に関わる実践的な手法としてグラレコを提案できそうだ、という嬉しい気づきがありました。タイトルは「対話を可視化させるグラフィック・レコーディングの効果とは~持続可能な個人と組織に必要な『木を見て森を見る』力~」。持続可能な個人や組織は、日常の対話においてもプロジェクトにおいても、パーツのみならずナラティヴ/システムで物事を認識する力(木を見て森を見る力)が必要だという自論を述べさせていただきました。もう少し具体的には、1で触れたようなメンタルモデルの問い直しには、目の前で起きている事実や発せられた言葉をそのまま受け取るのではなく、それらの前提や全体像を捉えようとすること必要である。そして、グラレコの特性(一覧性があること、物事の関係性の可視化作用があること、ビジュアル化により前提や決定事項を解像度高く共有することができること、など)が「木を見て森を見る」助けになる可能性がある。ことをお話しました。これまでなんとなく考えていたことを言語化する貴重な機会でした。
3 これからについて
ろくに卒論のテーマも決まっていませんが、そろそろ卒業後のことを考える時期にきました。現時点では進学を考えていて、企業組織においてメンタルモデルの問い直しを促す学習環境や道具のデザイン、ファシリテーターの力量形成に関連する研究がしたいと思っています。(またすぐ変わるかもしれません。)1,2の通り、私の関心事は様々な領域を横断する形で存在しています。そのため、文理横断、領域横断型の学際的に研究できる場所を求め絶賛リサーチ中です。
随分長くなってしまいました。ここまで読んでくださった皆さま、お付き合いいただきありがとうございました。似たようなことに関心があるという方がいらっしゃいましたら、ぜひ気軽にお声がけください。とても喜びます。
(2022年10月23日)