きっかけは、こっそり。

私の読書はこっそり始まった。

あれは確か小学2年生の頃だった。
私は父の部屋に忍び込んでいた。

おそらくはかくれんぼだっだと思う。

普段から、父の部屋は入ってはいけない「禁断の部屋」として私たち姉妹には知られていた。

散々ダメだと言われてる部屋ならば、
妹二人も入るまいと、幼ながらに思ったのだ。

父は昔から読書が好きな人だった。
彼の趣味は、読書とゲームと映画鑑賞。  

我が家にはテレビは2台。
どちらもリビングに隣同士で並べられていた。
一つは父用、もう一つは家族で。

よって私たち姉妹がテレビを見る時には、
基本的に横で何かしら他のものが写り、
またその音量もすごいものだった。

(本を読む時ですら、何かCDを流していた気がする。)

彼は昼には仕事から上がってくると、
外に遊びに行かない代わりに、
小さなリビングを夜中まで占領し続けていた。

おかげで、楽しみにしてたドラマも金曜ロードショーも、リアルタイムできちんと見れたことはあんまりない。

さて、父の部屋に忍び込んだ私は、
そこで大きな箪笥を見つける。

高さは床から天井まで。木製で重々しい雰囲気。
いかにもそれは、ナルニア国物語で異世界と通じていた箪笥にそっくりだった。

吸い寄せられるように私は扉を開く。

結果、ナルニア国物語のように物理的に飛ばされることはできなかったけど、
箪笥は私を「本」という世界に連れて行ってくれた。

はてしない物語に始まり、 
大量の東野圭吾シリーズに、馳星周。
ほんの少しの村上春樹と、
宮部みゆき、湊かなえ。

その他にも、名前が難しくて思い出せないたくさんの著者の本で溢れていた。

リビングで父が本を読んでいる姿は見ていたけれど、まさか箪笥が埋め尽くされるほど大量の本を持っていたとは、知らなかった。

なんだか父の秘密を知った気がして、
私は嬉しかった。

それからだったと思う。
父が仕事に行っている間、
母にも隠れて、私は父の部屋に忍び込む。

小学校に上がる時に買ってもらった漢字辞典をしっかり持参。
こっそり箪笥の本を読み始めた。

でも正直、
小学生低学年の私には難しい作品が多かった。

少しおバカな私が
心から面白いと思うことができたのは、
数少なかったように思う。
悲しいことに。

そのうちの一つが、獣の奏者シリーズ。
文字は大きめで読みやすかったのもあるけれど、何より壮大なファンタジーの世界が、
私の心を射止めた。

大きな翼を持つ獣が、
空を切り、金色に輝いて飛ぶ。
そしてその獣を操ることができる少女。
それを狙う国々の争い。

一時は憧れて、真剣に獣医さんを目指していたのはここだけの話。

今ではすっかり私も父の読書仲間だ。
あいにく、好きな本や好きなシーンは全く違って、それが喧嘩の火種にもなるんだけれど。

それでも、夕食の時間。
父と交わす本の会話は、私たちを繋いでくれる
橋のような存在だと思っている。

自分は年頃の女子だと自負してるし、
友達やら彼氏やら。

優先したくなるものが
どんどん増えていく最近だけど。

それでも、小さな頃から変わらず、
夕食で父との会話が絶えないのは、
きっとあの箪笥のおかげなのだと。
私は信じているわけだ。



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