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脊髄損傷と敗血症

脊髄損傷者にとって、「敗血症」は命に直結する重大なリスクです。感染症の早期発見や適切な予防策を取ることで、そのリスクを大幅に軽減することが可能です。本記事では、敗血症の基礎から脊髄損傷者特有のリスク、そして実践的な予防策までを詳しく解説します。


1)敗血症ってなに?

敗血症とは、感染症が全身に広がり、多臓器に障害を引き起こす病態です。初期には発熱や倦怠感といった一般的な症状から始まることが多いですが、急速に進行し、血圧低下や多臓器不全に至る場合があります。特に進行が速いため、早期診断と迅速な治療が不可欠です。

2)敗血症の原因

敗血症は、感染症を放置することで発生します。主な原因として以下が挙げられます:
• 尿路感染症
• 肺炎
• 褥瘡(床ずれ)の感染
• 消化管や皮膚の傷からの感染


これらの感染症が進行すると、全身に炎症反応が広がり、敗血症を引き起こすリスクが高まります。

3)脊髄損傷者は敗血症になりやすいの?

脊髄損傷者は敗血症のリスクが一般の人よりも高いとされています。理由は以下の通りです:
• 尿路感染症の頻発:カテーテルや導尿などの管理が原因で細菌感染が起こりやすい。
• 褥瘡のリスク:感覚麻痺により皮膚が傷つきやすく、感染症を招く。褥瘡が原因で敗血症へ進行することが多いとされてます。
• 免疫力の低下:慢性的な健康状態や栄養不良が感染症の進行を促す。

これらの要因が重なることで、敗血症の発生率が高まります。

2000年に発表された【高齢者脊髄損傷の予後】という論文を紹介します。今と人口比率や医療水準などは全然違いますが、脊髄損傷者の死因として敗血症が上位にランキングされております。
下の表にはアメリカの脊髄損傷者の各死亡原因の実数、期待値、標準化死亡比(以下、SMR)が載っています。各年齢群の敗血症の期待値とSMRを確認すると、敗血症は相対的に期待値が低く、SMRは高いことが分かります。この結果の解釈は難しくてはっきりとしたことは言えないのですが、脊髄損傷者に特有の死因である可能性があります。ただし敗血症が脊髄損傷者に特有の死因であると言うには、1)死亡原因がその疾患(ここで言う敗血症)に関連しているか、2)基準集団の期待値が低い理由(稀少疾患や特殊な集団であれば期待値が低くなる)、3)SMRの統計的有意性(95%信頼区間を確認)、4)疾患以外の要因(環境や社会的条件)の影響を確認する必要があります。

とは言うものの敗血症の原因の多くが脊髄損傷者の合併症として頻発するものですので、やはり脊髄損傷者にとって敗血症は要注意であることには変わりはないでしょう。

米国のModel system で受傷後24時間生存した脊髄損傷患者の年齢群別死亡原因

標準化死亡比(standardized mortality ratio:SMR)とは?(厚生労働省)

3)脊髄損傷者における敗血症の予後

脊髄損傷者の場合、敗血症の予後には特有の課題があります。まず、脊髄損傷者は感染症が重症化しやすいとされます。脊髄損傷者に多く見られる尿路感染症や褥瘡が敗血症の原因となる場合、高齢者では特に基礎疾患が治療を複雑化させ、回復までの期間が長引くことがあります。
ただし、適切な医療チームの支援を受けることで、予後を大幅に改善できる可能性があります。敗血症の早期発見と治療、リハビリテーションを同時に進める包括的なケアが重要です。これにより、敗血症からの回復後も生活の質(QOL)を維持することが期待できます。

4)脊髄損傷者が敗血症を予防するために必要なこととは?

敗血症の予防には、日常生活での感染管理が重要です。以下の具体策を実践することでリスクを軽減できます。
1. 尿路感染症の予防
• 導尿時の衛生管理を徹底する。
• 定期的に尿検査を行い、感染の兆候を早期発見する。
2. 褥瘡の予防
• 徐圧のために定期的に体位を変える。
• 皮膚のチェックを毎日行い、異常があればすぐに対処する。体の後ろ(殿部など)は自分で目視できないので鏡を使ったり、スマホで撮影したり、誰かに確認してもらってください。
• 圧力分散用のクッションやマットレスを使用する。
3. 栄養管理
• 免疫力を維持するために栄養バランスの良い食事を心がける。
• 必要に応じて栄養士の指導を受ける。
4. 感染症の早期発見
• 微熱や倦怠感といった体調の変化に敏感になる。
• 早めに医療機関を受診する。

5)日本版敗血症診療ガイドライン2024ー初期治療とケアバンドル(J-SSCG2024バンドル)

以下に最近出された敗血症診療ガイドラインの初期治療とケアバンドルの資料を分かりやすくまとめましたのでご覧ください。「こういう風に治療が進んでいくんだなぁ」となんとなく知っているだけでも良いと思いましたので掲載しました。


敗血症とは、感染症が原因で体の中の臓器に障害が出てしまう、危険な状態のことをいいます。

もし敗血症の疑いがあったらどうする?

1. すぐに調べること:
• 血液を調べて感染の原因を探す。
• 感染している場所を特定する(例えば、肺や腹部臓器など)。
• 血液の中の「乳酸」という物質の量を測ることで体の状態を確認。
2. 治療を始める:
• 抗菌薬をすぐに使う。
• 点滴で体に必要な水分や薬を補給する。
• 血圧が下がっている場合は、血圧を上げる薬を使う。
3. 集中治療:
• 状態が悪い場合は集中治療室(ICU)に移して、より細かい治療をする。

具体的な治療の流れ

1. 感染の特定:
• 血液や感染している場所の検査を行う。
2. 薬の使い方:
• 最初は広く効く薬を使い、その後、原因の細菌に合わせた薬に変更する。
3. 体の状態を確認:
• 血圧、呼吸、心拍数、体温をこまめにチェックする。
4. リハビリも重要:
• 治療と並行して、体が早く回復するためのリハビリも行う。

家族や患者へのサポート

• 治療や病気についての情報をしっかり伝える。
• 家族や患者の希望を大切にして、治療方針を一緒に考える。

このガイドラインは、敗血症に素早く対応して命を守るためのものです。もし心配な場合は、病院で早めに診てもらうことが大切です。


6)まとめ

敗血症は脊髄損傷者にとって重大なリスクですが、日常生活の中で適切な予防策を講じることで、その発生を大幅に防ぐことが可能です。今回紹介した尿路感染症や褥瘡予防、栄養管理のポイントは、どれもすぐに実践できる内容です。

明日からの行動として、まずは皮膚や尿の状態を定期的に確認する習慣をつけてみてください。また、感染症の兆候を見逃さないために、普段の体調変化に敏感になることを意識しましょう。

敗血症予防は、本人だけでなく周囲の支援者や医療スタッフとの協力が不可欠です。本記事が、脊髄損傷者ご本人やその支援者が感染症の予防に関心を持つきっかけとなれば幸いです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が、皆さんの健康を守るための具体的なアクションのヒントとなることを願っています。健康を第一に、今日からできることを始めていきましょう!

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