【16分で解説:呼吸障害】PTOT国家試験 脊髄損傷領域 第55回 PM-問題45 #せきそん国試
今回は第55回PT国家試験の午後:問題45を解説します。
今回は頸髄損傷者の呼吸障害についての問題です。頸髄損傷者であれば呼吸障害は必発します。それだけに非常に重要な知識となりますので、しっかりと学習していただけると臨床でも活かせるかと思います。では解説していきます。
まずは頸髄損傷者の呼吸障害の特徴を確認しましょう
とその前に、健常者の肺気量分画を確認します👇
ここで確認しておいてもらいたいのが以下の4つです
全肺気量(TLC) 肺活量(VC) 予備呼気量(ERV) 残気量(RV)
では四肢麻痺者(頸髄損傷者)の肺気量分画を見ていきましょう👇
四肢麻痺者(頸髄損傷者)では下赤矢印の全肺気量(TLC)、肺活量(VC)、予備呼気量(ERV)は低下し、残気量(RV)は大幅に増加することが報告されています。また予備吸気量は増加することはなく、変化なしかわずかに減少するようです(脊髄損傷理学療法マニュアル第3版参照)
なのでこの時点で答えが分かりました。
答えは 1.肺活量は低下する が正しい選択肢となります
3.予備吸気量は先ほど言ったように、増加しませんし、4.予備呼気量は減少しますので3と4は間違った選択肢です。
2.咳の強さは変わらない
咳(咳嗽:がいそう)について少し解説しようと思います。咳嗽は以下のように定義されています👇
咳嗽は吸気相▶︎圧縮相(加圧相)▶︎呼気相の3相(「咳の誘発相」を第1相として4相と記載されている場合もあります)に分かれています。”ゴホンッ”と咳き込むにはまずは肺の中に空気を入れないとだめなので、まず第1相で声門が開いて空気を吸い込みます。第2相では咳き込むことで肺の中にある気道内分泌物を押し出す必要があるので、声門をしっかりと閉じ、腹筋群で胸腔内圧を高めます。そして最後の第3相で声門が開き、爆発的な呼気によって気道内分泌物が喀出されるわけです。(*この一連の流れは一瞬で行われています。)水道のホースの出口を塞いで、開放すると勢いよく水が飛び出しますよね。あんな感じでしょうか。
ここまでは咳嗽のメカニズムについてお話しました。では頸髄損傷者ではどうなるのでしょうか?
まず第1相の吸気相ですが、頸髄損傷者は肺活量が低下しましたよね。と言うことは吸気によって肺の中に自力で入れられる空気の量は少なくなってしまいます。さらに第2相での加圧は腹筋群が担ってますので、腹筋群が麻痺している頸髄損傷者は加圧は困難となります。これだけでも頸髄損傷者にとっては咳をするにはかなり不利な条件が整っているのです。そのほかにも細かい話にはなりますが、声門が綺麗に閉まりきらない場合や、咳の誘発においては咽頭・喉頭・気管の感覚低下により異物混入を察知しにくくなっている場合も稀ですが存在します。その場合は咳すら誘発されないため肺炎のリスクが上がるため非常に危険です。
このように頸髄損傷者では咳の強さはかなり低下してしまうのです。
ひとつ簡易的に咳の力=咳嗽力を計測できるモノをご紹介いたします👇
これは”ピークフローメータ”と言います。使い方は非常に簡単で、咥えて咳をするだけでオッケーです👍
ではどれくらいの咳嗽力があれば良いのでしょうか??
注意が必要なのですが、この研究の対象者は呼吸器疾患・循環器疾患・消化器代謝疾患・運動器疾患・神経疾患をお持ちの中高齢者となります。そのような対象で調べた①自己排痰の可否と②気管吸引が必要となるPeak Cuff Flow(ピークカフフロー=咳嗽力)の水準を明らかにしようとして行われた研究です。対象が頸髄損傷者ではないので、あくまでも一つの参考値としてご覧ください。
この研究ではPeak Cuff Flowが240L/minあれば自己排痰は可能であり、100L/minでは気管内吸引が必要となると報告されてました。
私も20名弱の頸髄損傷者のPeak Cuff Flowを計測したことがあるのですが、完全損傷者ではやはりかなり低下していること(中には100L/minも無い方がいる)、不全損傷者では強くはないが比較的保たれている(240L/min以上はある場合が多い)ことが印象としてあります。
5.閉塞性換気障害が生じやすい
頸髄損傷者は拘束性換気障害が生じます。以下の図で解説します👇
換気障害は3つに分類されます。
①拘束性換気障害 ②閉塞性換気障害 ③混合性換気障害
①拘束性換気障害:%肺活量(%VC)が80%未満
②閉塞性換気障害:1秒率(FEV1.0%)が70%未満
③混合性換気障害:①+②
肺活量と言うのは、思いっきり吸って思いっきり吐いた時の空気の量のことです。頸髄損傷者では肺活量が低下しますので拘束性換気障害に分類される場合が多いです。
1秒率と言うのは、思いっきり息を吸って一気に吐き出した空気量に対して、最初の1秒間で吐き出した量(1秒量)の割合を示したものです。頸髄損傷者では70%未満になるケースは少ない印象です。中には長年の喫煙歴がある方ですと肺活量も一秒率も低下して混合性換気障害に分類される方もおられます。(閉塞性換気障害の代名詞はCOPDと言う疾患で通称”タバコ病”とも言われています。閉塞性換気障害は簡単に言うと空気を吐くことが困難になる病気です)
今回は色々と説明が長くなりましたが以上で解説を終わります。
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