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【超短編小説】座って見つめるランウェイ

「おしゃれは誰のもの?」
19歳の大学生・紗月は、車椅子で生活するようになってもファッションへの情熱を失わなかった。しかし、試着室の段差や車椅子に配慮されていないデザインに直面するたび、自分の存在が社会から取り残されていると感じる。ある日、友人たちとの買い物が彼女の運命を大きく変えるきっかけとなる。車椅子に乗る少女が新しい「おしゃれ」の可能性を切り拓く超短編小説。

この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。


再びおしゃれに目覚めた日

紗月は、子どもの頃からファッション雑誌を読み漁るような少女だった。2年前の交通事故で胸髄損傷となり、下半身が麻痺してからも「かわいい服を着たい」という気持ちは変わらなかった。
しかし、車椅子で街へ出ると、思わぬ壁に直面した。試着室の狭さ、立って着ることを前提とした試着室のデザイン、階段だらけのショップ。

「こんな世界で私の好きな服を選ぶなんて無理だ」と諦めかけていた。

そんなある日、大学の友人である美緒と沙羅に誘われ、ショッピングモールへ行くことになった。美緒が笑顔で言った。「今日は思いっきりおしゃれしよう! あんたに似合いそうな服、いっぱい見つけるから!」

試着室の向こう側

店内を回り、紗月はワンピースを手に取った。柔らかい素材で、動きやすそうなデザインだ。「これ、試着したいけど……」彼女の声は次第に小さくなった。
美緒が店員に聞いてくれたが、試着室の狭さや、段差があるため紗月の車椅子では入れなかった。沙羅がふと口を開く。「じゃあ、ここで羽織ってみたら? 」
紗月は一瞬ためらったが、美緒も「私たちが手伝うから!」と背中を押してくれた。彼女らの支えを受けながら鏡を見た瞬間、紗月の目に涙が浮かんだ。「やっぱり、おしゃれって楽しいね」無意識に我慢していた自分に気づいた瞬間でもあった。

「ない」なら創ればいい

買い物が終わり、帰り道で沙羅が言った。「でもさ、こういう状況って変だよな。車椅子の人が試着できないなんて。私たちで何かできないかな?」
その一言が、紗月の心に火をつけた。「車椅子でももっと自由にファッションを楽しみたい。じゃあ、私がそれを作る側になればいい。」
それから彼女は、大学を中退してデザインの勉強を始めた。自分の体験をもとに、車椅子に乗ったままでも着やすい服、動きやすい素材、そして何よりスタイリッシュなデザインを追求した。

ランウェイに立つ日

数年後、紗月が初めて手がけたファッションショーが開催された。ステージには車椅子ユーザーや義足をつけたモデルが、自信に満ちた表情で歩く姿があった。
「おしゃれは誰でも楽しめるもの。障壁なんて、作り出すのは社会の側です。」その言葉に会場は拍手喝采に包まれた。紗月の挑戦は、ファッション業界だけでなく、多くの人々の心を動かした。

社会へのメッセージ

この小説を通じて伝えたいのは、「多様性を受け入れる社会の必要性」です。おしゃれやファッションは特定の人だけのものではありません。しかし、現状では多くのバリアが存在しています。それを乗り越えるためには、個人の挑戦だけでなく、社会全体の意識改革が求められます。この物語が、ほんの少しでも「誰もが楽しめる世界」の実現に繋がるきっかけになれば幸いです。



最後まで読んでくださりありがとうございます。この物語を通じて、少しでも新しい視点をお届けできていたら嬉しいです。おしゃれの可能性は無限大です。あなた自身のスタイルを、ぜひ楽しんでください!

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