「美術に疎くても楽しめるエンタメ~『楽園のカンヴァス』~」
『楽園のカンヴァス』 原田マハ 著 (新潮社)
私は美術館が好きである。
あの静かな空間にいるだけで、心が落ち着く。
美術館の建物を取り巻く環境も、私にとっては大事だ。
公園や林の中にあれば最高!
外の風景が見える館内のカフェでお茶でも飲めれば尚良し。
若い時から好みの展示会が来るとさっそく観に行き、一点一点を解説文とともにじっくり眺めるので二時間ほどはかかってしまい、家族で観に行こうものならみんなをロビーで待たせてしまうことも。
地元の美術館では、時々無料のプロムナードコンサートが行われて、ピアノやフルート、バイオリンなどの演奏を聴くこともできた。
(今は密状態になってしまうので、やってないのかな?)
以前家族で倉敷を旅行したことがあるが、美観地区にある大原美術館では移動時間が迫っていたので外観だけを楽しんだ。外にも彫刻が何点か設置してあるから不満はなかったけどね。
そこもやはり環境がすばらしいから、中も観られたらよかったのにと後ろ髪をひかれる思いだった。
そんな大原美術館を舞台にした物語がこの本で、著者の原田マハさんもキュレーターでMoMAにも勤務された経験があるとのこと。
俄然おはなしの背景が真実味を帯びていて、とても興味深く読み進められた。
倉敷は大原美術館の展示会場のコーナーで、監視員の仕事をしている織絵には誰にも秘密にしていた過去があった。
パリの学生時代、画家アンリ・ルソーの研究論文で秀逸な持論を展開する彼女は、当時の美術界を賑わしていた。
しかし、今はハーフの女子高生を娘に持つシングルマザー。
彼女は過去の栄光のいっさいをすっかり消し去っていたのだが、そんな彼女に館長と新聞記者から、大原美術館に世界でも競争率の高いルソー展を持ち込むための切り札として白羽の矢が当たる。
なぜ!?誰も自分の過去を知る者はいないはずなのに…?
ルソーの作品を常設しているニューヨーク・MoMAのチーフキュレーターが一監視員でしかない彼女を交渉の窓口にすることを条件にあげてきたのだ。
そこから、織絵とそのMoMAの敏腕キュレーター、そしてアンリ・ルソーと彼の絵『夢』にまつわる物語が交錯する過去へと導かれていく…。
この本を読むときは、ぜひルソーの作品集を手にしながら読むとさらに楽しめる。
(ちなみに『ダ・ヴィンチ・コード』を読むときも、本に登場する様々な絵画を観ながら読みたい!と思ったものだ)
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