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降ってくるのではなく、結びつく。

いろんな情報をインプットしていると、『知識の掛け合わせ』を思いつく時があります。今回はそんな一例をご紹介します。
企業戦略設計に携わる際に、私の中で軸を設けています。その基本的な考え方として、ある2つの一次情報とそこからどのように『自分軸』を定めたのかご紹介します。


視点1_書籍『訂正する力』

まず一つ目は、書籍『訂正する力』(著者:東浩紀 氏)」です。
著書では、現代日本社会における「訂正」の重要性を多角的に論じられています。 過去の誤りを認めて修正する「訂正する力」が、社会の停滞を打破し、個人や国家の成長に不可欠であると。
本書では、以下が主要なポイントとして挙げられています。

  • 訂正する力の定義:単なる誤りの修正に留まらず、一貫性を保ちながら変化し過去を再解釈して新たな未来を切り拓く力が重要。

  • 日本社会の現状:政治や経済の停滞が続く中、トップダウンの改革ではなく、個々人が現場で少しずつ変化を促す「訂正する力」の重要性が強調されています。

  • 過去のリセット思考の限界:明治維新や敗戦後の日本のような劇的なリセットではなく、過去を認めつつ再解釈することで、持続的な社会変革を目指すべきだと論じられています。

  • 個人と社会の関係:個人が自己の過去を再発見し、「実は〇〇だった」と再解釈することで、他者との関係性や社会全体のつながりを深めることができると述べられています。

  • 平和と喧噪の社会:政治に支配されない多様な活動が展開される「喧噪のある社会」を取り戻すことが、平和の実現につながると提案されています。

著者は、これらの視点を通じて、現代日本における「訂正する力」の必要性と、その実践方法について深く考察されています。個人の自己啓発のみならず、社会全体の変革を考える上で示唆に富む内容となっています。

視点2_テセウスの船のパラドックス

二つ目は、「テセウスの船」という物体の同一性に関する哲学的なパラドックスについてです。 ギリシャ神話の英雄テセウスの船を例に、すべての部品が徐々に新しいものに置き換えられた場合、それは元の船と同じものと言えるかという問題を提起します。
この思考実験から得られる主な教訓は以下の通りです。

  1. 同一性の概念は複雑で、物理的な構成要素だけでなく、心理的、機能的、歴史的な側面も考慮する必要があります。

  2. 物事の同一性に対する感覚的な判断と論理的な結論が必ずしも一致しないことを認識することが重要です。

  3. 人々は同じものに対して異なる見方を持つ可能性があり、コミュニケーションにおいてはこの点を考慮する必要があります。

  4. この概念を積極的に利用することで、自己変革や新しい挑戦への動機付けになる可能性があります。

テセウスの船のパラドックスは、私たちに物事の本質や変化、そして同一性について深く考えさせる機会を提供し、日常生活や人間関係においても応用可能な洞察を与えてくれます。
また、テセウスの船のパラドックスに対する完全な解決策は存在しませんが、いくつかのアプローチがあります:

  1. アリストテレスの四原因説:アリストテレスの哲学では、事象の原因を4つに分けて分析することでパラドックスにアプローチする。

  • 形相因:設計や本質が変わっていないため、テセウスの船は「同じ」とみなせます。

  • 質料因:材料が変化しているため、物理的には異なります。

  • 目的因:テセウスが使った船という目的は変わっていないため、同一と考えられます。

  • 動力因:同じ技法で修理されているため、同一性が保たれるとみなせます。

2.心理的・機能的同一性:船員の視点から見ると、徐々に修理されながらも 
 同じ船に乗り続けてきたという心理的同一性があります。 機能的にも同じ 
 役割を果たし続けているため、同一とみなせる側面があります。

3.通時的同一性:「ナンバープレート」のような客観的な識別子を用いて、時
 間を超えた同一性を認める方法があります。 これにより、物理的な変化が
 あっても同一のものとして扱うことができます。

4.同一性の多面性:同一性を物質的、機能的、歴史的など複数の側面から捉
 えて状況に応じて適切な視点を選択する方法があります。

結論として、テセウスの船のパラドックスは完全には解決されませんが、これらのアプローチを通じて同一性の概念をより深く理解し、状況に応じて適切な判断を下すことが可能になります。

インプットの掛け合わせから生まれる問いと思考

ここで、この二つを結び付けた問いが出てきました。

"著書『訂正する力』と『テセウスの船のパラドックス』という考え方に相関性があるのではないか。 そこでの気付きや学びを踏まえると、創業から一定期間を経過した企業において事業ポートフォリオや戦略での変化が必要とされる際に、 社内外での合意形成や意識統一をはかっていく時に思考整理や物語の骨子として応用できるのではないか?"

  • 著書『訂正する力』=過去を再解釈し、変化を受け入れながら持続的な未来を創造する力

  • テセウスの船=変化の中で保たれる本質とは何か


上記の問いを軸として、もう少し深掘ります。

1. 『訂正する力』の概要と意味

東浩紀氏の『訂正する力』では、「人間の過ちやズレを認識し、それを修正し続ける能力」が重要視されます。この「訂正」とは単に修正や反省を意味するのではなく、自分自身や外部環境との対話を通じて、新しい視座や可能性を見出していく行為です。その根底には「固定的なアイデンティティではなく、流動的な存在としての人間観」があります。


2. 「テセウスの船」の哲学的問い

「テセウスの船」とは、部品をすべて置き換えても、それが同じ船と呼べるのかという哲学的問題です。この問いは、アイデンティティや連続性についての思索を促します。この問題の核には、「変化と維持」という対立概念があり、何をもって「同一性」を保つのかが問われます。


3. 両者の相関性

『訂正する力』は、「自己を訂正し続ける」というプロセスを重要視しますが、これを「テセウスの船」の文脈で見ると、「訂正」とは船の部品を取り換える作業に似ています。しかし、その過程で船(アイデンティティ)が持つ「全体性」や「意味」を失わないことが重要です。
つまり、『訂正する力』が指し示すのは、「テセウスの船」のように変化の中で自らを再構築し、なおかつ自分が何であるかを見失わない「持続的変化の知恵」だと言えます。


4. 企業への応用可能性

創業から一定期間が経過した企業は、外部環境の変化や内部構造の進化に伴い、大きな変革を迫られます。ここで『訂正する力』と「テセウスの船」の考え方を応用することで、以下のような効果が期待できます。

(1) 変化の受容

『訂正する力』の視座を取り入れることで、変化を恐れるのではなく、むしろ自らを積極的に訂正し、環境に適応していく「柔軟性」を育むことができます。

(2) アイデンティティの再構築

「テセウスの船」の問いに向き合うことで、企業は変化の中で「何を保ち、何を変えるのか」という本質的な問いを考える機会を得られます。この問いにより、企業のコアバリューや理念が再定義され、社員やステークホルダーに共有しやすくなります。

(3) 合意形成の物語としての活用

「テセウスの船」の物語は、「変わりながらも同じである」というパラドックスを象徴します。この構造を基に、企業の変革を「全体の物語」として提示すれば、社員や取引先の理解を深め、合意形成を促進する「ストーリーテリングの骨子」として活用できます。


5. 具体的な実践方法

  • 変化のプロセスを視覚化する

    1. 「テセウスの船」のように、変化の過程をステップごとに記録し、組織全体で共有することで、透明性を高める。

  • コアアイデンティティを再確認する

    1. 『訂正する力』を活かし、企業の本質的な価値(例:理念、顧客への提供価値)を明確にするワークショップを行う。

  • 物語として変革を語る

    1. 変化が過去と未来をつなぐ物語であることを、社員や外部ステークホルダーに伝え、「変わりながら同じである」組織像を共有する。

ここから、答えを探していく。

インプットした情報がふとした瞬間、ささいなきっかけで結びつくことは時としてあります。「アイデアが降ってきた」と表現されるかもしれませんが、私の意見としては「蓄積した情報が結びつき仮設された」な瞬間です。
ここでの仮説を実行し検証できるか、所謂「実行力」を人はまた試されます。問いを立て答えと結んでいくことを楽しみたいと思います。

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