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美味しいお酢で料理が変わる〜お酢の概要と選び方のコツ

前回は五つのお酢の健康効果をその仕組みとともにお伝えしました。

今回は前回をざっと振り返ると共に、お酢の選び方も合わせてお伝えしてみたいと思います。


お酢の概要

お酢は酸を含む液体で、その割合は裏ラベルの「酸度」に書いてあります。
食酢は 4-5% の濃度があり、主な酸は酢酸で、他にクエン酸、りんご酸、コハク酸、酒石酸やグルコン酸など、様々な酸がお酢には含まれています。

お酢の原料はアルコールですが、そのアルコール原料や副産物、酸の種類といった違いが味わいにも健康効果にも変化をもたらしています。

様々な味わい深いお酢がありますが、その差異は含有される酸の違い、発酵を行う菌の違い、原料となるアルコール、さらにその原料の違いといった多層的なバリエーションによって生み出されています。

静置発酵と全面発酵

お酢の製造方法には静置発酵と全面発酵があります。

アルコールから酢酸を作る酢酸発酵は酸素を使う好気発酵であるため、お酢を作るには酸素の供給が必要となります。

静置発酵と呼ばれる伝統的な製法では瓶に原料となるアルコールを入れ、そこに種酢という、酢酸菌を含む菌叢を投入して発酵を行います。

瓶の上部は空気に触れ、空気に触れた部分で酢酸発酵が起こります。
酢酸は比重が重いので沈殿し、また酢酸菌の活動によって熱対流がおこり、瓶全体がゆっくりと撹拌されてアルコールがお酢へと変わっていきます。
そのまま静かに置いておくので静置発酵、ですね。
醸造蔵によって様々ですが、一ヶ月から三ヶ月の時間をかけてこの工程が行われます。

静置発酵のお酢の造り方は写真とともに本で見ることもできます。

全面発酵はより安定的、効率的にお酢の製造を行うためのものです。
連続発酵、通気発酵ではドラムにアルコールと酢酸菌を入れ、回転させることで液体の全面に酸素を送り込んで酢酸発酵を進めます。
全面発酵では一日から三日で発酵が完了します。
連続発酵、通気発酵と呼ばれることもあります。
今日お酢を安価にいつでも買えるのはこの技術があるおかげだと言えます。

全面発酵と静置発酵で味や成分に違いは出るのでしょうか。
ある技術者は発酵方法による違いはごく小さく、原料の作り方や熟成が違いを決めると言われます。
逆に、静置発酵によるお酢づくりがまろやかで旨味あるお酢を作ると言われる方もいます。

ちなみに私は静置発酵で作られるクラフト酢が好きですが、大手ミツカンも素晴らしい酢を作ります。
ラインナップのひとつに「三ツ判 山吹」という商品があり、ミツカンのハイグレードなお酢は味の追求をおこたらない鮨屋でも使われています。
製法を見てみると「三ツ判 山吹」も静置発酵ですね。
味に重きを置く商品は静置発酵で作られることが多く、選び方の基準のひとつにできそうです。

3つの要素が味を決める

お酢の味を決めるのは元となるお酒、種酢(菌叢)、そして熟成です。

まず元となるお酒の造りがよいほど、やはりよいお酢が生まれます。
どのお酢メーカーも酒造りや原料米の高品質化に力を入れており、自社栽培米を使ったり、有機無農薬にこだわるなど、もはや日本酒蔵ではと思わせるくらい酒造りを大事にしています。

色々とお酢を試してきましたが、純アルコールから作られる酢酸比率の高いお酢より、原料由来の副産物が豊潤に含まれているお酢の方がよい味わいが期待できます。
個人的な経験則からも、原料であるお酒は大事な要素だと認識しています。

種酢、菌叢も味を左右します。
酢酸菌のような微生物は変異しやすく、それぞれの蔵の種酢の中で同じものは二つとないでしょう。
仮に同じお酒であっても異なる菌叢を投入すると出来上がるお酢も変わります。

熟成も味に違いを作ります。
早いお酢で数ヶ月、長いものであれば一年、二年の熟成を経て出荷されます。
長熟のお酢になると桁がひとつ変わることもあります。
醸造してから出荷まで熟成期間が長いほど保管コストもかかり回転率も落ちて蔵には負担となりますが、それを受け入れてでも熟成を頑張られています。

他にも殺菌温度、ろ過の具合など様々な要素があります。
主に米酢の話をしてきましたが、リンゴ酢、ワインビネガーなど様々なタイプのお酢があります。
私もイタリアンを作るときはワインビネガー、サラダでも甘味を持たせたいときはリンゴ酢、寿司のシャリには赤酢と用途に応じてまず種類を選び分けています。
その上でできるだけ静置発酵のお酢を選ぶこと、その中で原料、熟成といった辺りを注意しながらお酢を選んでいます。
酢酸菌、菌叢に関しては商品ラベルに表れないものですが違いを作るのは確かで、機会があればお酢蔵のお話が聞けるのを楽しみにしています。

誤解されがちな菌と酸

お酢の健康効果についても触れておきましょう。
なぜお酢が健康によいのか、原理原則的なことはこちらにまとめています。

その上で、誤解されがちなお酢の健康面での選び方について述べたいと思います。

「菌」と「酸」の違い

ときどき、酢酸菌を摂ることが体によいという話を聞きますが、これは酸と菌を混同した誤解に基づくことがほとんどです。

お酢は酸の水割りですが、この酸は酢酸、コハク酸などの酸を指します。
では菌は何をしているのかというと、アルコールからお酢を作る仕事をしています。
逆にいえばお酢が出来てしまえば酢酸菌の仕事は終わりで、実際にほとんどのお酢は加熱殺菌され、その際に酢酸菌も死滅しています。

これは他の発酵食品でも同じです。
例えばビール、ワインといったアルコール飲料では酵母がグルコースを分解してアルコールと炭酸を生み出しますが、この微生物の代謝物であるアルコールを人間はおいしく摂取しています。

仮に生きたまま微生物を摂取してもほぼ胃酸で溶かされます。
胃酸は食中毒菌などに対する防衛機構であり、微生物の侵入を食い止めています。

例外的に生きたまま腸に届く菌がいて、例えばビフィズス菌がそうです。
この菌を摂取することをプロバイオティクスと言いますが、プロバイオティクスが誤解され「生きたまま菌を摂るのがいいことだ」という概念が発酵食品に持ち込まれて酢酸菌を摂るのがよいという誤解に繋がったのかも知れません。

消費者からの強い要望もあって、最近は低温殺菌を行ったり、ろ過をかけないにごり酢を作るメーカーも登場しています。
酢酸菌摂取の健康効果の研究もされているようで、胃酸で溶かされるものの、菌類を構成するタンパク質などは腸内細菌のよい餌となりプレバイオティクスの効果があるとする説を見たこともあります。
ある種の誤解から新たな研究、製品づくりが生まれるというのは面白い話です。

ちなみに低温殺菌、無濾過は風味を引き上げることがあります。
日本酒でも生、無濾過のものは独特の細かな風味を保っており、同じことが低温殺菌、無濾過のお酢にも期待できます。
代償としては持ちが悪くなることです。
酢酸菌が生き残っていると瓶内で発酵が進み、お酢の風味を変えてしまいます。
私も自宅で酢酸発酵を使ったドリンクを作りますが、引き上げ時を間違うと酢酸臭の強いバランスの壊れた飲料が出来上がります。

選び方のまとめ

ざっくりまとめ直しましょう。

美味しいお酢を楽しみましょう。
お酢はその旨さにハマると中毒性を感じてしまうくらいポテンシャルのある調味料です。
ただ使うお酢を変えるだけで料理がワンランクアップ…!
さらに健康効果も付いてくるという嬉しいおまけもあります。

美味しいお酢を選ぶために、まず静置発酵のお酢を手にとってみてください。
米酢だけでなくリンゴ酢にも静置発酵のお酢があります。

にごり酢、低温殺菌のお酢はまた違った風味を期待できます。
例えばビネガードリンクを作るお酢として向いてそうです。
ただお値段や入手難度は上がります。
健康効果については立証されておらず、頑張ってこのタイプのお酢を常用する必要はありません。
少し変化が欲しいときに楽しむのが良いでしょう。

我が家のお酢の一部。買える場所が近くにあるかどうかも大事

ちなみに我が家のお酢消費量はなかなかのものです。
お酢が無いと物足りないくらい旨味にハマっているため、うどん、炒め物、色々なものに使います。
最近は酢飯にハマり、よくシャリを切っています。
熱くなるこの時期は肉味噌にお酢をたっぷり合わせ、冷やし酸辣担々麺もよいものです。
またお酢のレシピも機会あれば紹介していきたいと思います。

美味しいお酢ライフを楽しまれますように!