親子であっても気持ちを一つにするのは難しい。
最近のぴぃは学校をお休みすると、私の実家へ行きたがる。
私の母が1人で暮らす家には、孫達が描いた絵が階段の壁に時系列で貼られ、作品展のようになっている。
私の兄2人にもそれぞれ娘が1人ずついて、みんな絵を描くのが好きで、母は孫達の絵を大事にしてくれている。
ぴぃはそこに飾られる自分の絵を見たいし、増やしたいし、いとこ達の絵の上達も楽しみにしている。
実家に来ると、家にいる時と変わらず絵を描き続けるぴぃ。
かろうじて中学校には行けてる分、学校の話も母にたくさんするぴぃ。
学校をお休みしたからと、前回から勉強道具を持ち込むようになった。
母は、学校の話をしてくれるぴぃと、問題集と向き合うぴぃの姿を見られてすごくすごく嬉しかったんだと思う。
1週間後の今日、「これからそっちに行くね。」と母に連絡すると、「ぴぃちゃんまた行けなくなっちゃったの?学校、ずっと休んでるの?」と寂しそうに聞いてきた。
私は思わず、「そんな言い方しないでよ。」と言ったのち、ぴぃが近くにいたから、なんとなく会話をはぐらかす。
ぴぃが学校を休むことを、できないこととして捉えてほしくなかった。
でもそうか、母はやっぱりぴぃが学校に行ってくれてた方が安心するんだな。
どっかで学校に戻れるようになることをゴールとしてる。
まだちゃんとぴぃのありのままを受け止められないままでいる。
どれだけぴぃの成長、ぴぃへの私の気持ちを伝えても、全ては伝わらないし、どうしても母の中にある「普通」は捨てきれないのだと感じた。
私も毎日のようにぴぃのことを報告しているわけではないからしょうがない。
とりあえず、行く前に「今は、疲れたら休むということを大事にしている」「学校を休む日はエネルギーチャージの日と捉えてほしい」「これが今のぴぃのペースであることと、今はお母さんちが安心できる場所だから見守ってくれるとうれしい」とメールで送り、実家へ帰る。
ぴぃは、嬉しそうに母にあげる新しい絵を準備し、とりあえずと言ってまた勉強道具を用意した。
実家に帰ると、ぴぃの目を盗んでおもむろに母が新聞の切り抜き記事を渡してきた。
それは、適応指導教室を利用していた人の記事だった。
私は「あぁ、また始まった・・・。」と思った。
ぴぃが病気になって、不登校になって、母も私以上に頭を悩ませる時期があった。
ぴぃを連れて帰るたびに、ゲームとYouTube三昧のぴぃを悲しい顔で見つめる母。
「太陽を浴びた方がいいから早く起きた方がいいわよ。」
「夜ふかしさせないで睡眠時間をしっかりとってあげてね。」
「ご飯は大丈夫?ちゃんと作ってあげてる?」
「学校に行かなくて勉強しないで大丈夫?」
「学校に行かなくていいなんて絶対に言っちゃダメよ。」
母の良かれと思っての助言を快く受け止めることができなかった私。
母が不登校にまつわる新聞や雑誌の切り抜きをくれるたびに拒絶し、ラジオのお悩み相談の内容を話してくるたびに耳を塞いだ。
正直、母のその姿は、私にとっては負担でしかなかった。
「私以上に心配しないで」「私の不安に自分の不安を重ねないで」「持論を私に押し付けないで」私は心でずっとそう叫んでいた。
泣く場所がなくてただ泣きたくて1人帰った日も、「あなたが泣いてたらダメじゃない。しっかりしなさい」という励ましですらしんどかった。
本音を言えば、一緒に悩んだり励ますのではなく、ただ寄り添って欲しかった。
私の泣き言を聞いてくれるだけでよかった。
そして「頑張ってるね」「あなたなら大丈夫」って言ってほしかった。
私は一時期、母に分かってもらおうと伝えることも、泣き言を言うこともやめていた。
私との気持ちのすれ違いで苦しくなった母は、兄の助言もあり徐々に今の現状を受け止める、何も言わずに認める姿勢を心がけるように努力してくれていた。
時の経過とともに、母のその姿に申し訳ない思いと、ありがたいという思いが増していき、また母との距離が縮まってきていた。
今日、新聞の切り抜きを渡してきた母に、「これくらいのことはもうわかってるから」と嫌味を言ってしまう。
母は、「ごめん・・・」と言い、別の話でその場を取り繕う。
すると母は、ぴぃが持ってきた鞄の中に、勉強道具が入っていることに気づく。
母「ぴぃちゃん、また持ってきてたの??すごい!」
ぴぃ「うん、一応持ってきた。」
ぴぃはそう言ったまま勉強道具には目もくれず、絵をがむしゃらに描き続ける。
今日の様子だと、ぴぃはきっと勉強はしないだろうということはわかる。
でも、私の中では持ってきただけすごいと思えている。
ただ母は、ぴぃが勉強をする姿を見たいのだ。安心したいのだ。
しばらくすると、「ぴぃちゃん、せっかく持ってきたのにやらないの?ちょっとやる?」と促す母。
ぴぃ「今日はやらない。疲れがとれてないから。」
母「そうなの・・・・・」
・・・・・おいおいおい。
そんなこと言ってくれちゃったら、そんな寂しそうな顔してくれちゃったら、ここがぴぃの安心できる場所じゃなくなっちゃうよ。
思わずため息が出る。
うん・・・耐えろ、私。
母はずばり、ぴぃの姿に一喜一憂しているのだ。
抑えきれず、溢れている最中なのだ。
その気持ちは痛いほどよくわかる。
何度も何度も何度も、母の姿に自分を見てきたのだ。
母に対して感じる感情のほとんどが、ぴぃが私に対して思ってきたことだと思った瞬間が何度もあった。
母に私の思っている全ては伝わらない。
でも一番身近な存在だからこそそれが苦しい。
ただ、ぴぃが今頑張ってること、成長していること、これでも進んでいるんだということはしっかり伝えていきたい。
そして、こんな母を笑って見守れる私になりたい。