第0章#12_「障がいのある方の働く場をつくる」(久遠チョコレート&キッチンLABO)
ガスパッチョ隊長
――今回は、スマイリングの障がい者部門を担う「久遠チョコレート」と「キッチンLABO」のお話です。だけど、障がい者の働く場だけをつくろうと思ったわけじゃないですよ。それぞれに成り立ちが違う。ただ、僕の経験談が同じような福祉関係の経営者さんの参考になるかもしれないのでお伝えしますね。
ローリエ
――うちの隊長の尊敬すべき点は、新分野へのチャレンジに躊躇しないこと。壁にぶちあたっても、「できないなら、できる方法を考えろ」というガスパッチョ理論でやり切ります。スピード感もあるし、付いていくのが大変です(笑)。
隊長
――「おんぶにだっこ」は、高齢者が働き盛りの若者世代を支えるという逆転の発想から生まれたプロジェクト。認知症があっても社会貢献ができて、お金も稼げる場をつくりたいという思いが強くなりました。だけど、現状の高齢者デイサービスに「働く」という選択肢を加えて、対価を得るのは難しいことが判明。いい方法がないか、いろいろな方面の方に相談しまくりました。(→「おんぶにだっこ」については、こちらのnoteを参考に!)
ローリエ
――ある方から、「認知症の人が働ける場所」をゴールとするなら、介護保険制度を利用するのではなく、障害福祉の側面のアプローチはどうか」、とアドバイスいただき、これが大きな転機となりました。
隊長
――認知症というと、みなさん高齢者をイメージしがちですが、ICD10(国際疫病分類)では、「認知症は脳の障害」と分類されています。つまり、この病名がある人は、障害者手帳を持っていなくても、就労継続支援B型のサービスを受けることができる。結果、就労継続支援B型事業所として運営すれば、「認知症の方の働く場をつくる」という僕らの想いが叶うことになるんです。
ローリエ
――この事業には「リワーション」という名前をつけました。「リ・ワーク+コンディション」からなる造語です。働くことが今は難しいとされる方にも、コンディションを整えて社会とつながっていってほしい、という思いを込めています。
隊長
――いえ、それが違うんです(笑)。「おんぶにだっこ」をきっかけに認知症のある方たちの働く場として開いたのが「キッチンLABO」(2021年3月25日開業)で、「久遠チョコレート」はその前年(2020年10月31日開業)。
きっかけは、当時の利用者さんとの話です。その方には、障がいのある子どもがいるんですが、ある時「スマホを持ちたい」と言い出したんです。その子はある就労継続支援B型事業所に通っていて工賃が月1万円ほど。スマホを持たせると月1万円の出費。親として、働いて得たお金が全額スマホ代になるのはどうかと悩んでいたので、「工賃がいくらあれば、スマホを持たせてあげられる?」と尋ねました。すると「3万円あれば、1/3がスマホ代でもいい。他のお金の使い方も覚えさせたいから」との答え。僕は、就労継続支援B型事業所の工賃がこんなにも安いことを知らなくて、その子にスマホを持たせてあげる方法を考えるようになったんです。だけど、3万円の工賃を渡せる事業所って、なかなかない。ネット検索していくうちに「久遠チョコレート」にたどり着きました。
隊長
――付加価値が高いこと。工賃が高いこと。そして、「温めれば、何度だってやり直せる」というコンセプトが決め手となりました。障がい者にとって「失敗してもいいよ」という点は大きな安心感です。このあたり、久遠チョコレートの店長のショコラさんにも話を聞いていきましょう。それから、「キッチンLABO」の統括であるココットさんにも加わってもらいますね。
ショコラ
――はじめまして。久遠チョコレート豊田店の店長ショコラです。私は大学卒業からずっと福祉畑。前職の時から、代表の夏目浩次さんが「久遠チョコレート」を立ち上げた話は伝わってきていました。これまで就労継続支援B型事業所の商品って、「障がい者が一生懸命つくったから買ってね」といったスタンスが多かったんですけど、久遠チョコはぜんぜん違いました。
ショコラ
――チョコレート1枚250円、という高額商品。美味しくて、個性的でおしゃれ。ブランディングがきちんとされており、日本全国にファンがいます。なぜ福祉の世界でそれが可能なのか興味がありました。工賃も、一般的な事業所よりも多くお渡しすることができます。
隊長
――単価が高いと、時給を上げることができます。「働く」だけじゃなく、障がいのある人たちにこれまでより高い賃金を渡せる仕組みを僕自身も学んでいます。
ショコラ
――私は、障がいのある人たちの生活介護に20年以上携わってきましたが、チョコレートづくりは素人。だけど久遠は、一流チョコレート屋でありながら、「誰もがつくれる」という点が素晴らしいです。現在は、サービス管理責任者という立場なので、「〇〇さんにはこの作業をやってもらおう」など、日々計画しているという感じです。
ショコラ
――知的障がいのある方、自閉症の方、ダウン症の方、うつ病の方、不登校だった方などもいます。スマイリングの理念は、「黒子になる」ですから、それをいつも頭に置いています。利用者さんがやれないから、代わりにやるね、というのではなく、やってもらうためにはどうしたらいいか?を考える。その日によって、不調の子もいるので、「気分転換をして違う作業をしましょう」とか、休みがちな子には、気持ちを持ちあげる方法を考えたり。得意な作業を多くして、また次も頑張ろう!とやる気になってもらえるように努めています。伝え方にしても、単語で淡々と伝える方が分かりやすい方と、しっかり理由まで説明してやっと納得してくれる方など、さまざまですよ。
ショコラ
――そうですね。「リメイク」と呼んでいるんですが、実際は2回まで可能です。製造工程としては、まず前日に計量してチョコレートを溶かしておきます。そこから、具材を切ったり、混ぜたりして、型に流し込み。冷やして、カット。ここまでを約3時間でやります。次の日に、梱包作業、そのタイミングでチョコレートの選別をします。欠品の出たチョコレートは、温めて溶かして、生まれ変わります。利用者さんは、スタッフと二人三脚で作業を覚えていきます。失敗したら、やり直せるので、どんどんチャレンジしてもらっています。
ショコラ
――ある不登校の姉弟がいまして。お姉ちゃんの方が久遠チョコレートで働くようになってから、だんだん生活リズムが整ってきました。それで、弟さんの方も店に来るようになって。お母さんがすごく感謝をしてくださいました。やれることは限られているのですが、やるべきことを店側がはっきり提示できるので、それがモチベーションにつながり、心の安定になっているのかなと思っています。
ココット
――私は、「キッチンLABO」を担当しているのですが、同じ障がい者部門とはいえ、それぞれの事業所で性格が違うと感じています。「久遠チョコレート」は、静かな環境で黙々と作業できるので、精神障がいを持つ方、対人関係が得意でない方に向いています。一方、「キッチンLABO」は地域の食堂でもあるので、人とのコミュニケーションが好きで、活動的なタイプの方に向いていそうです。現在は認知症の方が4名ほど来てくださっています。あとは身体に障がいのある方など。ランチにいらっしゃるお客様の接客も積極的。畑もあるので、野菜の手入れや収穫作業など、さまざまな作業にチャレンジ欲のある方が多いです。
ココット
――それに繁忙期も違って、「キッチンLABO」は春夏が忙しく、「久遠チョコレート」はクリスマスやバレンタインのある秋冬が忙しいんですよね。だからゆとりのある時期に、畑で草刈りや収穫、清掃やリネンの整理整頓など、応援に来てもらえるような体制もつくりたいです。他にも、スープタウンには、高齢者も子どももいるし、いろんな人や、いろんなお仕事があるところも魅力。ひとつのことをずっとやるよりも、いろんなことに挑戦できることが、彼らの自信にもなりますから、リワーション部門全体として、そこを目指したいです。
隊長
――「久遠チョコレート」や「キッチンLABO」を卒業した人が、スープタウンの一般職として働く、という流れもできるといいですね。