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第0章#10_高齢者が若者を支えるライフスタイル「おんぶにだっこ」誕生秘話

2018年に全国8か所で開催された「これからの介護・福祉を考えるデザインスクール」は、ガスパッチョ隊長とローリエ女史の大きな転機となりました。「ゼロから1」を生み出す、その鍛錬の場に集まってきた熱い福祉びとやクリエイター、ファシリテーションにはキレッキレのコミュニティデザイナーたちが配置され、隊長と女史は大海にでた小魚のように戸惑いながらも、刺激的なスクーリングの連打に食らいつきました。そして、元バレー部のおふたりのド根性は、その先のスマイリングの光となる大きな出逢いとアイデアを生み出すのです。

名古屋の会場までせっせと通う、隊長と女史。
グループになった人たちからの刺激も大きい。

ガスパッチョ隊長
――「これからの介護・福祉を考えるデザインスクール(以下デザインスクール)」は最初、ローリエ女史がSNSで見つけたんだっけ?
 
ローリエ女史
――はい、知り合いがSNSでシェアしていまして。全国8か所、いろんな地域で介護・福祉の新しいデザインを考えていくとあったので面白そう、って。そしたら、隊長が応募してくれました。私たちの通った中部ブロックには約50人参加、若い世代も多く活気があってびっくりしました。

【これからの介護・福祉を考えるデザインスクール】=山崎亮が代表を務めるstudio-L主催(平成30年度厚生労働省補助事業)。2018年に全国8か所・全7回のプログラムで行われた。介護・福祉の現場にある楽しさ、技術、哲学、実行力を実際の現場で体験し、資源の発見やよりよくする方法を共有し、介護・福祉の現場をさらに魅力的な職場にするためのプロジェクトづくりに取り組む。「介護のこれからって何だろう?」と答えをみんなで探す。
https://korekara-pj.net/school/


ローリエ女史がSNSで目にした
「デザインスクール」のキービジュアル。
テーブルのうえのツールや名札も
カッコよくデザインされてあり、テンションもアガる!!

隊長
――このデザインスクールで出会ったのが、のちにスマイリングに合流することになるルーさんと、スープタウンプロジェクトの立ち上げから僕らの伴走をしてくれているコミュニティデザイナーのPOTさんでした。考えてみれば、その出会いこそが宝ものですね。

今思えば、スープ会議の源泉のような出会い。

デザインスクールでは、どんなことを学んだんでしょうか?

ローリエ
――第1回は、「自分が年をとったときにどうなってるといいかな?」「どういうところだったら行きたい?」といった感じの問いをグループ・ディスカッション。私は「年をとっても働いていたいな、仕事ができていたらいいな」と話しました。趣味のバレーボールはひとりじゃできないから難しいけど、ずっと働くことができたら、人生楽しいだろうなあと。そこから、高齢者になっても自分でできることは自分でやる。さらに、誰かの役に立つことができるとさらに良いな、という思いを皆さんと共有しました。
 
隊長
――第2・3回は他の施設にインターンに行ったり、業界の最新事例をリサーチするなど、デザイン思考を学びながら怒涛のインプットを繰り返します。そして、第4回目からは、グループに分かれて、自分たちのオリジナル企画を立てるというフェーズに進みました。

デザインスクールのメンバーが
スマイリングの松平店にインターンにやってきて
輪になってドラムサークル♩

ローリエ
――産みの苦しみはハンパなかったですよね。これまでも、さまざまな施設のさまざまな事例を見てきたし、施設内通貨(スマイル)など、スマイリング内で応用できるものあれば積極的に取り入れてきましたが、まったくゼロから社会にインパクトをもたらすようなアイデアと言われても、煮詰まるばかり。それに、たとえ内容が良くても、それをオモシロく表現するのはどうしたらいいの?という次の壁がやってくるから、もう、全然わからんかったんです(笑)。
 
隊長
――ルーさんたちのグループは盛り上がってるんです。高齢者さんたちが、年を重ねてもいっしょに遊べる仲間を募集するというアイデアで、「俺の求人票」というタイトルをつけて楽しそうに話し合っていました。

隣の芝生は青くみえるものです・・・!!汗っ
ルーさんのチームでつくった「俺の求人票」
イラストが描かれたデザインフォーマットに
「俺・わたし」の趣味趣向を描き込んでいく。

だけど、僕たちは、糸口が見つからず、焦るばかり。その時に、ずっとPOTさんが伴走してくださり、アイデアを整理して、ヒントをくれたんです。
 
ローリエ
――POTさん、鬼でしたね(笑)。でも、答えはきっと自分たちがやってきたことのなかにある。粘り強く、アイデア会議に付き合ってくださいました。私たちの強みは、デイサービスで高齢者をずっと見てきたこと。後期高齢者の方や、認知症のある方たちが、何をどれぐらいやれないのか、やれるのか、は把握できています。そこから「高齢者や認知症のある方にも、やれることはたくさんある」という部分に光を当てようという話に発展しました。彼らの「やれること」は、現役世代と同じではないですが、そのうちの数パーセントでもやってもらえるような社会システムができると、きっと幸せが増えていくという予感がありました。
 
隊長
――確か、ここから先どんどん高齢者が増えていくことを図解した「人口ピラミッド」の資料がテーブルに置いてあって・・・それをメンバーのみんなで眺めていたんですよね。若者人口のうえに、どーんとお年寄り人口がのっかっていて。ふと「この図を逆さにしたらいいんじゃない?」というアイデアが出てきたんですよね。

2018年11月20日のPOTさんのノートに書かれたメモ。
「高齢者が働ける人を支える社会づくり」!!!
「支える人が逆転する」!!!

ローリエ
――それで、実際に逆さにしてみたら、どんどん増殖していく高齢者たちが、若い世代を支えるような社会構図のイメージが浮かんできました。僕らのグループにもやっと光が差してきて、それを起点に「おんぶにだっこ」というタイトルが生まれ、私たちのグループの企画が動き始めたのです。
 
隊長
――2020年ごろには「株式会社おんぶにだっこ」として、要介護になった人だけが働ける会社を立ち上げる・・・というところまで企画として描きましたね。

「おんぶにだっこ」のパネルは、映えスポットにも!
デザインスクール「地域別発表会」でのトークの様子。
展示ブースには大勢の人が立ち寄り、
アイデアに興味を持ってくれた。
こんなにもたくさんの人が「おんぶされて」くれました!

ローリエ
――キービジュアルのおばあちゃん、いい味出しているでしょう?この方、実は利用者さんでもなんでもないんですよ。あるマルシェにいったときにオシャレなおばあちゃんが歩いていて、背格好も良い感じ。私たちも頭のすみっこでずっとモデルを探していたので、思わず「写真、撮らせてください~!」とお声掛けしたんです(笑)。結果、キャッチーでおちゃめな感じのイメージパネルが完成しました。

隊長
――デザインスクールの最終形としては、「おいおい老い展」という展覧会形式の成果発表の場がありましたが、自分たちのデイサービスでも、本当に「おんぶにだっこ」の考えを実践できるかチャレンジしたんですよね。具体的には「ビストロ・スマイリング」というこども食堂イベントで、デイの利用者さんにシェフになってもらいお料理を作ってもらいました。もちろん事前にご家族にも説明し、理解してもらいます。おばあちゃんたちはデイサービスの後で疲れているはずなのに残って、頑張ってくれました。「またお願いね!」と言ったら、「楽しかった~」という声が返ってきました。その「楽しかった~」の笑顔を引き出すことができると、意欲的にデイサービスに通ってくれるようになるんです。そこが大事なんですよね。だけど、ある時「デイサービスの利用者さんを働かせるのは如何なものか?」と外部から叩かれてしまいました。まあ、そんなことで僕たちはあきらめたりはしませんけど!

【おんぶにだっこ(デザインスクール版)】:若い人が高齢者を支えるという構図を見直して、高齢者が若い人を助ける設計図を描き、高齢者の活躍の場をつくる企画。要介護認定を受けていても、若い人たちを支えることを仕事にできる会社を設立し、高齢者がボランティアではなく賃金を得ながら社会に貢献することを応援するというもの。この考えはのちに、高齢者が若者を支える地域づくり団体「NPO法人おんぷにだっこ」として組織化され、スマイリングの社会活動マインドの軸となる。

「NPO法人おんぶにだっこ」が生まれ、
めちゃくちゃ素敵なコンセプトブックが出来あがる。
イラストでわかりやすく図解。
「若者だって甘えていい」「全部をがんばらなくていい」
やさしい社会の提案にうるっときちゃう。

仕事や育児に追われる働き盛りの世代を、おじいちゃんやおばあちゃんの方がサポートしてあげるという新しいライフスタイル・・・なにこれ、すごく面白い。いま、お話にでてきた、こども食堂「ビストロ・スマイリング」も、「おんぶにだっこ」の一連の流れから生まれた企画ですか?

ローリエ
――そうですね、「ビストロ・スマイリング」は、高齢者や認知症のある方たちがシェフになり料理をつくって、子育て世代を支えるという食堂イベントとして2019年5月にスタートしました。現在は、就労継続支援B型事業であるキッチンLABOで引き継いでいますが、月1回ベースで続いています。私自身が、日々ごはんをつくるのが得意ではないし、誰かつくってくれたらいいのに~と思うこともよくあって(笑)、まわりのママをみても、ゆっくり座ってごはんを食べることが少ないと感じていました。キッチンで立って食べてるよという人もいました。子どもと食卓を囲む、そこにいろんな人が関わっていく。忙しいママやパパが1日だけでも楽になる場が創れたらいいなというのがはじまりの思いです。
 
隊長
――最初の頃は、利用者さんやスタッフの家族、自分たちの知り合いに食べにきてもらっていたんですが、だんだん口コミで広がっていきました。
 
ローリエ
――単発イベントではなく日常的にやることが大事だと思っていましたので、はじめは週1回(月4回)!ただ、さすがに毎週はしんどくて(笑)。現在は、月1回で定着しています。SNSで次は〇月〇日ですよ~と告知すると、来ていただけるようになりました。メディアにもとりあげていただくようになり、この活動を知ってくださる人が増えてきたのが良かったかな。

「ビストロ・スマイリング」の準備中。
認知症のある方や高齢の方がシェフとなってお料理を担当。
それぞれに職員がついて補助作業をする。
パプリ~カ♩子どもたち、喜んでくれるかな。
色味もあざやか。ホットプレートをつかった
パーティ料理の準備をします。

隊長
――今、ほとんどが核家族で、親と子しかいないので、赤の他人だったり、幅広い世代の人とテーブルを囲んで食べるってレアケースなんですよね。「なかなか子どもとゆっくり座って食べることがないから有難い。家だと他の用事もあってバタバタするので、私自身もくつろいで楽しめます」など、参加してくれたママさんやパパさんからも、好評をいただいています。また、シェフ役を務めてくださった認知症のある高齢者さんには、「いのちの洗濯ができた」など嬉しいお言葉も。ぜひ、動画でもご覧ください。
https://npwo.or.jp/tomoniikirumachi/archive/259

「おんぶにだっこ」の取り組みは、NHK厚生文化事業団の「第6回認知症とともに生きるまち大賞」の本賞を受賞されたとか!!デザインスクールでの産みの苦しみは、社会に投げかける大きなアクションとなりましたね。

テレビが取材にきました。それだけで、みんなそわそわ。
「いつもどうりでいいよ~」と言われてもねw
働くママたちがゆっくり座って食べられる、って
なかなか少ないんです。

隊長
――ありがとうございます。「おんぶにだっこ」という新しいライフスタイルの提案をはじめ、働くママを支えるこども食堂「ビストロ・スマイリング」、障がい者の働く場づくり「スマイリングキッチンLABO」、高齢者の困りごとをお手伝いする「まごころサポート」などの取り組みを評価していただきました。でも、背景にある僕らの考え方はシンプル。高齢者や障がいのある方にできることと、できる可能性のあることをそのままやってもらっているだけ。自分が誰かの役に立っているというのは嬉しいことですから。
 
ローリエ
――潜在的にあった考え方をあぶりだして、掬い上げて、「おんぶにだっこ」というコトバ化できたことは大きいです。デザインに落とし込んでいくことで、想いが伝わりやすくなり、まわりの人に影響を及ぼしたり、巻き込んでいって、それが社会を変えいくチカラになるって、すごいな~と実感しました。
 
隊長
――ゼロから1を生み出すことができる、という大きな自信になりましたし、スープタウンに向かう基盤ができたと言えるでしょうね。

介護福祉×デザイン、という未知なる扉を開いたガスパッチョ隊長とローリエ女史。次回は、デイサービス上郷店でのDIYフェスのお話です。

つづく。

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