第0章#10_高齢者が若者を支えるライフスタイル「おんぶにだっこ」誕生秘話
ガスパッチョ隊長
――「これからの介護・福祉を考えるデザインスクール(以下デザインスクール)」は最初、ローリエ女史がSNSで見つけたんだっけ?
ローリエ女史
――はい、知り合いがSNSでシェアしていまして。全国8か所、いろんな地域で介護・福祉の新しいデザインを考えていくとあったので面白そう、って。そしたら、隊長が応募してくれました。私たちの通った中部ブロックには約50人参加、若い世代も多く活気があってびっくりしました。
隊長
――このデザインスクールで出会ったのが、のちにスマイリングに合流することになるルーさんと、スープタウンプロジェクトの立ち上げから僕らの伴走をしてくれているコミュニティデザイナーのPOTさんでした。考えてみれば、その出会いこそが宝ものですね。
ローリエ
――第1回は、「自分が年をとったときにどうなってるといいかな?」「どういうところだったら行きたい?」といった感じの問いをグループ・ディスカッション。私は「年をとっても働いていたいな、仕事ができていたらいいな」と話しました。趣味のバレーボールはひとりじゃできないから難しいけど、ずっと働くことができたら、人生楽しいだろうなあと。そこから、高齢者になっても自分でできることは自分でやる。さらに、誰かの役に立つことができるとさらに良いな、という思いを皆さんと共有しました。
隊長
――第2・3回は他の施設にインターンに行ったり、業界の最新事例をリサーチするなど、デザイン思考を学びながら怒涛のインプットを繰り返します。そして、第4回目からは、グループに分かれて、自分たちのオリジナル企画を立てるというフェーズに進みました。
ローリエ
――産みの苦しみはハンパなかったですよね。これまでも、さまざまな施設のさまざまな事例を見てきたし、施設内通貨(スマイル)など、スマイリング内で応用できるものあれば積極的に取り入れてきましたが、まったくゼロから社会にインパクトをもたらすようなアイデアと言われても、煮詰まるばかり。それに、たとえ内容が良くても、それをオモシロく表現するのはどうしたらいいの?という次の壁がやってくるから、もう、全然わからんかったんです(笑)。
隊長
――ルーさんたちのグループは盛り上がってるんです。高齢者さんたちが、年を重ねてもいっしょに遊べる仲間を募集するというアイデアで、「俺の求人票」というタイトルをつけて楽しそうに話し合っていました。
だけど、僕たちは、糸口が見つからず、焦るばかり。その時に、ずっとPOTさんが伴走してくださり、アイデアを整理して、ヒントをくれたんです。
ローリエ
――POTさん、鬼でしたね(笑)。でも、答えはきっと自分たちがやってきたことのなかにある。粘り強く、アイデア会議に付き合ってくださいました。私たちの強みは、デイサービスで高齢者をずっと見てきたこと。後期高齢者の方や、認知症のある方たちが、何をどれぐらいやれないのか、やれるのか、は把握できています。そこから「高齢者や認知症のある方にも、やれることはたくさんある」という部分に光を当てようという話に発展しました。彼らの「やれること」は、現役世代と同じではないですが、そのうちの数パーセントでもやってもらえるような社会システムができると、きっと幸せが増えていくという予感がありました。
隊長
――確か、ここから先どんどん高齢者が増えていくことを図解した「人口ピラミッド」の資料がテーブルに置いてあって・・・それをメンバーのみんなで眺めていたんですよね。若者人口のうえに、どーんとお年寄り人口がのっかっていて。ふと「この図を逆さにしたらいいんじゃない?」というアイデアが出てきたんですよね。
ローリエ
――それで、実際に逆さにしてみたら、どんどん増殖していく高齢者たちが、若い世代を支えるような社会構図のイメージが浮かんできました。僕らのグループにもやっと光が差してきて、それを起点に「おんぶにだっこ」というタイトルが生まれ、私たちのグループの企画が動き始めたのです。
隊長
――2020年ごろには「株式会社おんぶにだっこ」として、要介護になった人だけが働ける会社を立ち上げる・・・というところまで企画として描きましたね。
ローリエ
――キービジュアルのおばあちゃん、いい味出しているでしょう?この方、実は利用者さんでもなんでもないんですよ。あるマルシェにいったときにオシャレなおばあちゃんが歩いていて、背格好も良い感じ。私たちも頭のすみっこでずっとモデルを探していたので、思わず「写真、撮らせてください~!」とお声掛けしたんです(笑)。結果、キャッチーでおちゃめな感じのイメージパネルが完成しました。
隊長
――デザインスクールの最終形としては、「おいおい老い展」という展覧会形式の成果発表の場がありましたが、自分たちのデイサービスでも、本当に「おんぶにだっこ」の考えを実践できるかチャレンジしたんですよね。具体的には「ビストロ・スマイリング」というこども食堂イベントで、デイの利用者さんにシェフになってもらいお料理を作ってもらいました。もちろん事前にご家族にも説明し、理解してもらいます。おばあちゃんたちはデイサービスの後で疲れているはずなのに残って、頑張ってくれました。「またお願いね!」と言ったら、「楽しかった~」という声が返ってきました。その「楽しかった~」の笑顔を引き出すことができると、意欲的にデイサービスに通ってくれるようになるんです。そこが大事なんですよね。だけど、ある時「デイサービスの利用者さんを働かせるのは如何なものか?」と外部から叩かれてしまいました。まあ、そんなことで僕たちはあきらめたりはしませんけど!
ローリエ
――そうですね、「ビストロ・スマイリング」は、高齢者や認知症のある方たちがシェフになり料理をつくって、子育て世代を支えるという食堂イベントとして2019年5月にスタートしました。現在は、就労継続支援B型事業であるキッチンLABOで引き継いでいますが、月1回ベースで続いています。私自身が、日々ごはんをつくるのが得意ではないし、誰かつくってくれたらいいのに~と思うこともよくあって(笑)、まわりのママをみても、ゆっくり座ってごはんを食べることが少ないと感じていました。キッチンで立って食べてるよという人もいました。子どもと食卓を囲む、そこにいろんな人が関わっていく。忙しいママやパパが1日だけでも楽になる場が創れたらいいなというのがはじまりの思いです。
隊長
――最初の頃は、利用者さんやスタッフの家族、自分たちの知り合いに食べにきてもらっていたんですが、だんだん口コミで広がっていきました。
ローリエ
――単発イベントではなく日常的にやることが大事だと思っていましたので、はじめは週1回(月4回)!ただ、さすがに毎週はしんどくて(笑)。現在は、月1回で定着しています。SNSで次は〇月〇日ですよ~と告知すると、来ていただけるようになりました。メディアにもとりあげていただくようになり、この活動を知ってくださる人が増えてきたのが良かったかな。
隊長
――今、ほとんどが核家族で、親と子しかいないので、赤の他人だったり、幅広い世代の人とテーブルを囲んで食べるってレアケースなんですよね。「なかなか子どもとゆっくり座って食べることがないから有難い。家だと他の用事もあってバタバタするので、私自身もくつろいで楽しめます」など、参加してくれたママさんやパパさんからも、好評をいただいています。また、シェフ役を務めてくださった認知症のある高齢者さんには、「いのちの洗濯ができた」など嬉しいお言葉も。ぜひ、動画でもご覧ください。
https://npwo.or.jp/tomoniikirumachi/archive/259
隊長
――ありがとうございます。「おんぶにだっこ」という新しいライフスタイルの提案をはじめ、働くママを支えるこども食堂「ビストロ・スマイリング」、障がい者の働く場づくり「スマイリングキッチンLABO」、高齢者の困りごとをお手伝いする「まごころサポート」などの取り組みを評価していただきました。でも、背景にある僕らの考え方はシンプル。高齢者や障がいのある方にできることと、できる可能性のあることをそのままやってもらっているだけ。自分が誰かの役に立っているというのは嬉しいことですから。
ローリエ
――潜在的にあった考え方をあぶりだして、掬い上げて、「おんぶにだっこ」というコトバ化できたことは大きいです。デザインに落とし込んでいくことで、想いが伝わりやすくなり、まわりの人に影響を及ぼしたり、巻き込んでいって、それが社会を変えいくチカラになるって、すごいな~と実感しました。
隊長
――ゼロから1を生み出すことができる、という大きな自信になりましたし、スープタウンに向かう基盤ができたと言えるでしょうね。
つづく。