㉞上から下か, 下から上か
ミュージカル好き救急医の独白 vol.34
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -
はじめに
物事には順番が大切ですよね. みなさんがいくつかの症状を認める場合にも, それがどのような順番で認めたのかは非常に大切なのです. 複数の同じ症状を認めたとしても, その順番が異なれば考える疾患も変わるということです. 今日はそんなお話を.
今回のミュージカル
ラブ・ネバー・ダイ
オペラ座の怪人を知らない人はいないでしょう. 劇団四季でロングランされており, 映画化もされています. それでは, ラブ・ネバー・ダイという作品はご存じでしょうか. 2014年に日本初演, 主役のファントム役は, 鹿賀丈史さんと市村正親さん. 鹿賀さんといっちゃんとなればもう観に行くに決まっているわけです. 私が鹿賀ファントムを観に行ったとき, ちょうど客席に市村さんがいて, 幕間にほんの少しお話させていただいたのはいい思い出です. この作品, ファントムの失踪から10年後を描いた話なのですが, 内容が衝撃的. 知名度や上演回数から, 多くの方がオペラ座の怪人を観た後にラブ・ネバー・ダイを観るとは思うのですが, これを逆に観たとしたら複雑な感情になるのでは...
救急外来あるある
25歳男性(fさん)が腹痛を主訴に来院しました. 腹痛以外に, 気持ち悪く数回吐き, 下痢も認めるようです.
Dr. S:「お腹の痛み, 嘔吐, 下痢はどのような順番でしょうか?」
Pt.f:「昨日の夕方から気持ち悪くなって, その後お腹が痛くなりました. 」
Dr.S:「下痢は今日からですか?」
Pt.f:「そうですね. 朝からです.」
Dr.S:「いまは水分は摂れますか?」
Pt.f:「昨日は飲むと気持ち悪かったのですが, いまは大丈夫です. 」
胃腸炎は上から下
感染性胃腸炎, よく聞く病気だと思います. ウイルス性腸炎, 細菌性腸炎など原因は多岐にわたります. ノロウイルス, ロタウイルスなどはニュースでも耳にしますよね. 食品や汚染された水などから感染するわけですが, 体内への入口は口, 出口は肛門なので, そうなると症状も上(口)から下(肛門)へ出るのです. つまり, 嘔気・嘔吐(気持ち悪い, 吐いてしまう)→ 腹痛(お腹が痛い)→ 下痢(便がゆるい)という流れです.
胃腸炎は非常に頻度の高い病気ですが, 診断に悩むことが少なくありません. 例えば同じものを食べた複数人に同様の症状が認められる場合には, 原因を同定でき胃腸炎と診断できるのですが, 集団ではなく原因がすぐには同定できない場合には難しくなります. また, 症状が嘔吐のみの段階での受診, 嘔吐・腹痛で下痢は伴っていないなど, 症状が全て揃っていない場合にも簡単ではないのです. 救急では, その後の時間経過を踏まえて確定診断することになります.
下から上なら要注意
胃腸炎は上記理由により即座に診断できないことがあるが故にエラーも多いのが現状です. 胃腸炎だと思ったら別の疾患であったということがあるということです. その代表が急性虫垂炎(盲腸)です. それ以外にもイレウス, 腸閉塞, 急性心筋梗塞など複数存在します. 急性虫垂炎もまた非常に頻度の高い疾患ですが, 手術が必要な場合もあり胃腸炎と判断してはいけません. その時のポイントが嘔気・嘔吐が先か腹痛が先かなのです.
みなさんがこのような症状を認める場合には, 是非症状の順番を訴えて下さい. 「胃腸炎ですか?腹痛から始まって, その後気持ち悪くて吐いたのですが…」とね.
♪愛はただ 生きてゆく この命 消えても
愛は決して 決して死なず この命 消えても
永遠に生きる 愛は♬
『Love Never Dies 愛は死なず』
ミュージカル好き救急医から, 知っているとチョコッと役立つ知識を少しずつお届けします. ぜひ!