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㉓呼吸数はとっても大切!

ミュージカル好き救急医の独白 vol.23
- The Monologue of a Musical-Loving Emergency Physician -

はじめに

バイタルサイン(vital signs)って聞いたことありますか?日本語でいうと生命の徴候とも呼ばれます. SignではなくSignsと複数形になってますから, バイタルサインに含まれる項目は複数存在します. 一般的には, 血圧, 呼吸数, 体温, 脈拍を指しますが, 意識や尿量, 瞳孔径, 酸素濃度(SpO2)を併せて評価することもあります.
この中で, 軽視されがちなバイタルサインが呼吸数です. 呼吸数は重症の患者さんを見抜くときに非常に大切であり, それを知るとマズイ状態か否かを判断し易くなります. なかなか自身の呼吸数を正確に測定するのは難しいのですが, 目の前の人の呼吸数は正常か否かは判断できますよね?!

今回のミュージカル

ダンスオブヴァンパイア
ミュージカルのビッグナンバーはいくつかもあるのですが, その中でもとんでもなくスゴいと感じたのは, ダンスオブヴァンパイア1幕『フィナーレ』の山口祐一郎さんと, ウィキッド『自由を求めて』の濱田めぐみさんです. どちらも肺活量がハンパなく, 私たちが予想している以上にスゴいのです.
濱田めぐみさんと言えば色々ありますが, 鹿賀丈史さんとのKING&QUEEN(2014年@赤坂ACTシアター)は最高すぎましたねぇ. ジキル&ハイドの曲も多く, 濱田さんとの『罪な遊戯』は素晴らしかった(鹿賀丈史さん時代のルーシーはマルシアさんでしたからね).
今回は, 素晴らしい歌を歌うのにも大切な呼吸に関して.


救急外来あるある

79歳の男性(Tさん)が, 2日前からの倦怠感(かったるい)を主訴に救急外来を受診しました.
Dr.S:「今日はどうされたのですか?」
Pt.T:「なんだかかったるくてね. 先生, 点滴でもしてくれよ.」
Dr.S:「水分は摂れないですか?」
Pt.T:「水分は摂れるよ. でもなんだか力が入らなくてね…」
意識清明, 血圧 110/56mmHg, 脈拍 90回/分, 呼吸 26回/分, SpO2 97%, 体温 37.0℃

呼吸数がなんで速くなるのか?

呼吸がハァハァと速くなる病気, 最も有名なのは過換気症候群かもしれません. しかし, 救急外来で呼吸数が速い患者さんを過換気と判断するためには, いくつかの条件があり, 真っ先に考える疾患ではありません. この辺りはまたどこかで取り上げます.
呼吸数が速くなる原因はいくつかあるのですが, 最も頻度が高く覚えておいた方がよいのは, 身体の代償反応としての呼吸回数の増加です. 速くなるべくして速くなっているということです. みなさん, 階段を駆け上がったり, 急いで歩いた後に一時的に呼吸がハァハァしたことありまよね. 身体が酸素を欲しているわけです. 逆に寝ているときには, スヤスヤと呼吸は落ち着いていますよね. なかにはもの凄い鼾(いびき)で呼吸が止まっている方もいたりして…(睡眠時無呼吸症候群といいますね).


呼吸数は嘘をつかない

体温や脈拍は薬の影響を受けます. 解熱剤を飲んでいれば熱は上がりませんよね. 前回もお話しした通り, 痛み止めとして内服している場合もありますから, そのような場合にも熱が上がりづらいこともあります. また, 心房細動などに対して脈を抑える薬を飲んでいる方もいます. つまり, 体温や脈拍は薬の影響を受けやすいのです.
それに対して, 呼吸に影響を与える薬は限られ, 通常の用量で使用している場合にはまず影響しません. 眠剤(眠るための薬)をたくさん飲んだりしなければってことです. 呼吸数は嘘をつかないのです.

Tさんは呼吸数が上昇しています. 通常は安静にしているときに, 1分間に20回を超えることはありません. 呼吸数が上昇している→身体が悲鳴をあげている, と判断し原因を考えるのです. Tさんは精査の結果, 前立腺炎という尿路感染症でした. 呼吸が速いことのみで, その原因が直ぐに分かるわけではありませんが, 何かしらの原因が潜んでいると教えてくれるわけです.

“呼吸数はとにかく大切”, これを今日は覚えておいて下さい!では!


♪解き放ていまつかめ自由を その手で〜〜♪
『ACT-1 フィナーレ』

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