”血が出た!”ときのリアル・アプローチ(総合診療 2021 12月号)
はじめに
人は身体のあらゆる所から血が出る生き物である. よって怪我や疾病で出血した時, 医療的処置が必要となる.
臨床現場では, 圧迫止血ができない, そこまで手が届かない(止血ができない環境にある)場合には, 専門的処置が必要となる. また, 圧迫止血ができる部位であっても, 時として止血しきれない場合もある. 高齢者は抗血栓薬を内服していることも多く, それゆえに処置をいつ行うべきか, 今後の薬剤の使用はどうするべきか, その判断は決して容易ではない. 例えばDOACを内服している心房細動患者が鼻出血を主訴に来院し, 圧迫止血ではなかなか止まらない時にどのようにマネジメントをするかなどは, 臨床医にとって意外と難しいものだ.
本特集では「血が出た! 」ときにどうアプローチし, どう判断すべきか, ケースをもとにわかりやすくまとめてみた. 第1章では, 典型的な出血症例ながら実際の現場では悩み, 判断を誤りがちなケースを提示して, より早期に適切な介入ができることを目標とする. 第2章では, 近年処方数が非常に多い抗血栓薬の一般的事項から頻度の高い消化管出血や外傷時の内服薬の管理, そして多くの情報が集まりつつあるトラネキサム酸, 輸血について解説する. 第3章では, そもそも出血を起こさせないために日頃から意識すべきことは何か, 整理してみた.
目次
第1章:外来で頻度の高い出血性病変
①吐血
②下血・血便
③肉眼的血尿
④性器出血
⑤喀血・血痰
⑥鼻出血
⑦眼の出血
⑧創部出血
⑨頭部外傷
⑩稀だけれども知っていれば対応に困らない出血
第2章:抗血栓薬内服患者の出血時の対応と休薬期間
- トラネキサム酸と輸血を添えて -
①わが国の抗血栓薬処方の現状と薬剤の特徴
②抗血栓薬内服中の消化管出血患者の対応と休薬期間(再開時期)
③抗血栓薬内服患者の頭部外傷患者の対応と休薬期間(再開時期)
④トラネキサム酸
⑤輸血
第3章:予防に勝る治療なし
①消化管出血予防
②高齢者の転倒予防
③過多月経予防
④心房細動患者に対する抗凝固薬, 急性冠症候群における抗血小板薬内服患者の出血予防
Editorial
”どーせやるなら その道の一流を目指そうぜ”(宇宙兄弟13巻 #125 一流のパイロット)
私は救急医だ. 現在は主に救急外来(ER)で研修医と共に様々な主訴の患者の初療に従事している.
ERで仕事をしていると出血を認める患者さんを毎日の様に診る. 事故や転倒, 転落などの外傷患者, 吐血や下血, 血便などの消化管出血患者, その他鼻血や喀血, 血尿などなど, ”血”を見ない日はあり得ない.
圧迫が可能な部位では圧迫止血が原則だが, 頭蓋内や消化管, さらには腹腔内出血など手が届かない部位の出血ではそうはいかない. それが故に脳外科医, 消化器内科医など専門科に処置を依頼することも多い.
「将来どうするんだ?」, 「専門は?」, 「救急なんて根本的な解決できないでしょ」, 救急医になろうとしたとき, そしてなった後もよく言われた台詞だ(いまでも...).
確かに私は食道静脈瘤からの出血でショックとなっている患者の止血処置はできないし腹腔内出血患者の緊急手術もできない. 他にもできないことだらけではある. 若かりし頃, ERを受診した患者の方向性をつけ, 専門科にバトンタッチをする際にもどかしい思いをしたことも少なくない.
しかし今の私は少し違う.
例えば, 上部消化管出血疑い患者が来院した場合に重要なことはなんだろうか. 直ぐに内視鏡ができれば問題ないのだろうか. 内視鏡ができない環境下ではできることはないのだろうか. 抗血栓薬を内服していたら?PPIの投与は?輸血は?そもそもなんで吐血したのだろうか?本当に上部消化管出血なのか...いろいろと考えることがあるわけだ.
さらに, 出血を認めている場合には止血が確認できるまでは抗血栓薬を中止するのは誰もが納得するところであるが, いつ再開するべきなのかは明確な基準があるようで実はない. 多くのことを限られた時間のなかで判断する必要があり, 初療医の腕の見せ所である.
冒頭の言葉は私が愛してやまない『宇宙兄弟』で主人公南波六太に対する教官デニール・ヤングの台詞である. 救急医として根本的な治療解決はできないことも少なくない. しかし, "いまなにをやるべきか”を適格に判断しあらゆる患者の対応を"It's a piece of cake ! ”と笑顔で対処できるよう一流を目指していきたい.
出血大サービスのこの企画, ご賞味あれ!
宇宙兄弟のススメ
宇宙兄弟, 私が大好きな漫画です. 人を傷つけることなくやる気を奮い立たせてくれる, ワクワクさせてくれる, そんな漫画ですよね. 最新刊40巻は「待ってました!」と誰もが叫ぶ内容であったのではないでしょうか. 読んでいない方, ぜひ!
以下は最近関わった本の巻頭言などに引用した台詞です.
”どーせやるなら その道の一流を目指そうぜ”(総合診療 12月号 2021)
『宇宙兄弟』13巻 #125「一流のパイロット」より
救急診療 好手と悪手(medicina 増刊号 2021)
”本気の失敗には価値がある”
『宇宙兄弟』11巻 #107「本気の失敗」より
救急外来, ここだけの話
”グーみたいな奴がいて, チョキみたいな奴もいて, パーみたいな奴もいる. 誰が一番強いか答えを知っている奴 いるか?”
『宇宙兄弟』5巻 #39「グーとチョキとパー」より