漢字に潜む古代中国文化への窓 (19):「亶」

前置き

古代中国の発想、世界観などを追求する際、古代中国語の上古音における音象徴を参照すると、役に立つヒントを得ることが期待できます。今まで、「氣(気)」「門」「完」・「官」・「或」「令」・「良」「龍」「包」「此」「隹」・「鳥」「需」「方」「且」「付」「莫」「由」「麗」「甲」「肖」「交」を見てきました。今回は、「亶」が音符として働く形声文字における音と意味の関連性について調べます。

上古音の構成

上古音の構成は:声母 + 介音 + 韻尾。声母 = 音節の最初の部分。介音 = 母音あるいは半母音。韻尾 = 音節の末尾に位置する音。

研究背景

言語学者により定着してきた「上古音における音象徴の存在」論に基づいている当方の見解では、「亶」の場合、音と意味の間に次の関連性が見られます。声母は歯茎閉鎖音で、表している意味は「まっすぐ」です。韻尾は歯茎鼻音で、「付着する;接近した」という意味を表しています。なお、「意味」より広く、「概念」、「イメージ」としても考えて良いです。声母が言葉の主要意味 (概念・イメージ) 、韻尾が言葉の二次的な意味 (概念・イメージ) を表します。

「亶」の字形

「旦」は、音符 (残存文字) (水平線) + 意符「日」(太陽)  意味 = あきらか。あさ。あした。
本来的な意味: 長く平らな地平線の上に昇る太陽。

「亶」は、音符「旦」(長くて平らな) + 意符 (残存文字) (穀倉) 意味: まことに。
本来的な意味: 長くて平らな倉庫の基礎。
「まことに」の意味は借用により。

「亶」が音符として働く形声文字で「長くて平らな」の意味を表します。

「亶」が音符として働く形声文字の実例

壇:意符「土 」(つち)  意味 = 台。さいだん。えんだん。
本来的な意味: 長くて平らな土の祭壇。

擅:意符「扌/手 」(て;動作の記号)  意味 = 独占する。ほしいまま。
本来的な意味: (長くて) 平らにする。
「独占する。ほしいまま。」の意味は比喩的 (独占したり恣意的に行動したりして他人の意志や利益を抑圧する) 。

檀:意符「木 」(き;木材)  意味 = びゃくだん。
本来的な意味: 長い香木を平らに削ったもの。

檀:意符「木 」(き;木材)  意味 = びゃくだん。
本来的な意味: 香用にするための長くて平らな白檀の板。

氈:意符「毛 」(け)  意味 = ウールマット。フェルト。
本来的な意味: 長くて平らなウールの敷物。

膻:意符「月/肉 」(にく)  意味 = きも。
本来的な意味: (中国医学では)乳房の間の胸の平らな中央部分。
「きも」の意味は再解釈による。

羶:意符「羊 」(ひつじ)  意味 = なまぐさい。
本来的な意味: 長くて平らな、悪臭を放つ羊肉。

鸇:意符「鳥 」(とり)  意味 = ハイタカ。
本来的な意味: 平らなくちばしを持つ猛禽類。

まとめ

形声文字の音符として働く「亶」の文字は、声母の歯茎閉鎖音が表す「まっすぐ」の意味を「カメの甲羅・はこ・おり・水門」などという形で表します。韻尾は歯茎鼻音で、「付着する;接近した」という意味を表しています。「他の物の上に置いておくことにより付着する」という形で現れます。

では、Until next time.