漢字に潜む古代中国文化への窓 (22):「麻」
前置き
古代中国の発想、世界観などを追求する際、古代中国語の上古音における音象徴を参照すると、役に立つヒントを得ることが期待できます。今まで、「氣(気)」、「門」、「完」・「官」・「或」、「令」・「良」、「龍」、「包」、「此」、「隹」・「鳥」、「需」、「方」、「且」、「付」、「莫」、「由」、「麗」、「甲」、「肖」、「交」、「亶」、「九」と「尞」を見てきました。今回は、「麻」が音符として働く形声文字における音と意味の関連性について調べます。
上古音の構成
上古音の構成は:声母 + 介音 + 韻尾。声母 = 音節の最初の部分。介音 = 母音あるいは半母音。韻尾 = 音節の末尾に位置する音。
研究背景
言語学者により定着してきた「上古音における音象徴の存在」論に基づいている当方の見解では、「麻」の場合、音と意味の間に次の関連性が見られます。声母は両唇鼻音で、表している意味は「潜伏状態」です。韻尾は軟口蓋閉鎖音で、意味を表しているよりも単語の発音がここで「終了」するのを知らせます 。なお、「意味」より広く、「概念」、「イメージ」としても考えて良いです。声母が言葉の主要意味 (概念・イメージ) 、韻尾が言葉の二次的な意味 (概念・イメージ) を表します。
「麻」の字形
「𣏟」は、2本のあさの茎。あさ (麻) の特徴の一つとして、繊維は植物の中に隠されていること。
「麻」は、元々音符「𣏟」+ 意符「广」 (建物) 。 意味 = あさ。しびれる。本来敵な意味: 屋内で、麻の隠された繊維をあきらかにするためにこすったり削ったりする。「しびれる」の意味は、その作業がもたらす効果により。「林」(はやし) は別字。
「麻」が音符として働く形声文字で、「こすったり削ったりする」の意味を表します。
「麻」が音符として働く形声文字の実例
麼:意符「幺 」(細い糸) 意味 = こまかい。(非常に) ほそい。薄暗い。
本来的な意味: 薄くこすったり削ったりする。
摩:意符「手 」(て;動作の記号) 意味 = こする。さする。する。
「手」が元の意味を明確にする。
麼:意符「幺 」(細い糸) 意味 = こまかい。(非常に) ほそい。薄暗い。
本来的な意味: 薄くこすったり削ったりする。
磨:意符「石 」(いし) 意味 = みがく。
本来的な意味: こすったり削ったりするのに使用する石。
糜:意符「米 」(こめ) 意味 = かゆ。ほろびる。
本来的な意味: 米の細片からなる粥。
「ほろびる」の意味は、「粥を作るために穀物を挽く」から。
縻:意符「糸 」(いと) 意味 = つな。つなぐ。
本来的な意味: 細断された繊維を撚り合わせて牛の首輪を作る。
靡:意符「非 」(右と左に一列に広がる) 意味 = 分割する。分散する。ちらかす。無駄な。贅沢な。否定。
本来的な意味: こすったり削ったりする過程で物体を左右に散らす。
「無駄な。贅沢な。」の意味は、「財産を散らかす」の連想から。「否定。」の意味は借用にっより (非から) 。
魔:意符「鬼 」(幽霊;悪魔) 意味 = あくま。あく。
本来的な意味: (比喩) 人の感覚を麻痺させる悪魔。
梵語 (Mara) の (Ma) を音訳するために作られた文字である可能性も。
まとめ
形声文字の音符として働く「麻」の文字には、声母の両唇鼻音が表す「潜伏状態」の意味が「隠された繊維をあきらかにするためにこすったり削ったりする」という形で現れます。介音は円唇母音で、表しているう意味は「湾曲状;円形状」です。「円形状」が「縻 = 牛の首輪」ではっきり表されています。
では、Until next time.