漢字に潜む古代中国文化への窓 (12):「付」

前置き

古代中国の発想、世界観などを追求する際、古代中国語の上古音における音象徴を参照すると、役に立つヒントを得ることが期待できます。今まで、「氣(気)」「門」「完」・「官」・「或」「令」・「良」「龍」「包」「此」「隹」・「鳥」「需」「方」「且」を見てきました。今回は、「付」が音符として働く形声文字における音と意味の関連性について調べます。

上古音の構成

上古音の構成は:声母 + 介音 + 韻尾。声母 = 音節の最初の部分。介音 = 母音あるいは半母音。韻尾 = 音節の末尾に位置する音。

研究背景

言語学者により定着してきた「上古音における音象徴の存在」論に基づいている当方の見解では、「付」の場合、音と意味の間に次の関連性が見られます。声母は両唇破裂音で、表している意味は「広げる」です。介音は円唇母音で、表しているう意味は「湾曲状;円形状」です。韻尾は軟口蓋閉鎖音で、意味を表しているよりも単語の発音がここで「終了」するのを知らせます 。なお、「意味」より広く、「概念」、「イメージ」としても考えて良いです。声母が言葉の主要意味 (概念・イメージ) 、韻尾が言葉の二次的な意味 (概念・イメージ) を表します。

「付」の字形

「尌」は、音符「壴」(台に置かれたたいこ) + 意符「寸」(手;動作の記号) 。意味: 物を並べて置く。本来的な意味: 太鼓など楽器を並べて置く。

「付」は、音符「 尌」の省略形 (並べて置く) + 意符「亻/人」(ひと;人間の行い) 。意味:  つく。つける。手渡す。与える。届ける。委ねる。任せる。

「付」が音符として働く形声文字で「並べて置く;当てる」の意味を表します。

「付」が音符として働く形声文字の実例

府:意符「广」(建物)  意味 = 役所。
本来的な意味: 備蓄品が並べて置いた (保管された) 倉庫。

拊:意符「扌/手」(て;動作の記号)  意味 = うつ。
本来的な意味: 平手打ちをするときに手のひらを相手の頬に当てる。

附:意符「阜/阝」(積もった土)  意味 = 現在、「付」と同じ意味。
本来的な意味: 圧縮した土を並べて置く。

柎:意符「木」(き;木材)  意味 = いかだ。花の萼。
本来的な意味: 木材を並べて置いていかだを作る。
「花の萼。」の意味は借用により。

符:意符「竹」(たけ)  意味 = わりふ。
本来的な意味: 割った竹の破片を合わせて作った割り符。

跗:意符「足」(あし)  意味 = あしの甲。
本来的な意味: 足を適切な位置に固定することをイメージした骨。

駙:意符「馬」(あし)  意味 = そえうま。
本来的な意味: 車両の横に置かれた副え馬。

鮒:意符「魚」(さかな)  意味 = ふな。
本来的な意味: 釣り糸に付けられた餌用のふな。

まとめ

形声文字の音符として働く「付」の文字は、声母の両唇破裂音が表す「広げる」の意味を「並べて置く;当てる」という形で表します。介音は円唇母音で、表しているう意味は「湾曲状;円形状」です。「付」が音符として働く形声文字において、「湾曲状;円形状」の影響は薄い。

では、Until next time.