漢字に潜む古代中国文化への窓 (16):「甲」

前置き

古代中国の発想、世界観などを追求する際、古代中国語の上古音における音象徴を参照すると、役に立つヒントを得ることが期待できます。今まで、「氣(気)」「門」「完」・「官」・「或」「令」・「良」「龍」「包」「此」「隹」・「鳥」「需」「方」「且」「付」「莫」「由」「麗」を見てきました。今回は、「甲」が音符として働く形声文字における音と意味の関連性について調べます。

上古音の構成

上古音の構成は:声母 + 介音 + 韻尾。声母 = 音節の最初の部分。介音 = 母音あるいは半母音。韻尾 = 音節の末尾に位置する音。

研究背景

言語学者により定着してきた「上古音における音象徴の存在」論に基づいている当方の見解では、「甲」の場合、音と意味の間に次の関連性が見られます。声母は軟口蓋閉鎖音で、表している意味は「枠」です。韻尾は両唇破裂音で、「押す」という意味を表しています。なお、「意味」より広く、「概念」、「イメージ」としても考えて良いです。声母が言葉の主要意味 (概念・イメージ) 、韻尾が言葉の二次的な意味 (概念・イメージ) を表します。

「甲」の字形

「甲」はおそらくカメの甲羅の象形文字。意味: こうら。よろい。きのえ。本来的な意味: 「カメを押さえて封じ込める甲羅」。「きのえ。」(十干の1番目) の意味は借用により。

「甲」が音符として働く形声文字で「押さえて封じ込める」の意味を表します。

「甲」が音符として働く形声文字の実例

呷:意符「口」(くち)  意味 = 飲み込む。吸う。飲む。
本来的な意味: 飲み込む (食道に飲食物が押さえて封じ込める)。

匣:意符「匚」(囲い)  意味 = はこ。
本来的な意味: 蓋のついた箱。

岬:意符「山」(やま)  意味 = みさき。山の傍ら。
本来的な意味: 両側が崖に圧迫された山の峡谷。
「みさき。」の意味は「海に突き出ていて両側が水に押されている土地」のイメージから。

押:意符「扌/手」(て;動作の記号)  意味 = 上から力をかけておす。差し押さえ担保にする。
本来的な意味: 「甲」が元々表した意味 (押さえて封じ込める) を再度表すために作られた文字。

狎:意符「犭/犬」(いぬ;動物)  意味 = なれる。あなどる。
本来的な意味: 犬を飼い慣らすために躾ける。

柙:意符「木」(き;木材)  意味 = おり。
本来的な意味: (動物を閉じ込める) 蓋したおり。

胛:意符「月/肉」(にく)  意味 = かいがらぼね。
本来的な意味: 下の筋肉を圧迫する貝殻骨。

閘:意符「門」(もん)  意味 = 開閉ができる門。水門。
本来的な意味: 閉鎖時に押し下げる水門の板。

まとめ

形声文字の音符として働く「甲」の文字は、声母の軟口蓋閉鎖音が表す「枠」の意味を「カメの甲羅・はこ・おり・水門」などという形で表します。韻尾は両唇破裂音で、「押す」という意味を表しています。

では、Until next time.