漢字に潜む古代中国文化への窓 (14):「由」

前置き

古代中国の発想、世界観などを追求する際、古代中国語の上古音における音象徴を参照すると、役に立つヒントを得ることが期待できます。今まで、「氣(気)」「門」「完」・「官」・「或」「令」・「良」「龍」「包」「此」「隹」・「鳥」「需」「方」「且」「付」「莫」を見てきました。今回は、「由」が音符として働く形声文字における音と意味の関連性について調べます。

上古音の構成

上古音の構成は:声母 + 介音 + 韻尾。声母 = 音節の最初の部分。介音 = 母音あるいは半母音。韻尾 = 音節の末尾に位置する音。

研究背景

言語学者により定着してきた「上古音における音象徴の存在」論に基づいている当方の見解では、「由」の場合、音と意味の間に次の関連性が見られます。声母は歯茎閉鎖音で、表している意味は「まっすぐ」です。介音は円唇母音で、表しているう意味は「湾曲状;円形状」です。韻尾は軟口蓋閉鎖音で、意味を表しているよりも単語の発音がここで「終了」するのを知らせます 。なお、「意味」より広く、「概念」、「イメージ」としても考えて良いです。声母が言葉の主要意味 (概念・イメージ) 、韻尾が言葉の二次的な意味 (概念・イメージ) を表します。

「由」の字形

「由」は、口から液体の内容物が流れ出て、細い弧を描いて注がれる長い首のアルコール容器の象形文字 。意味:  理由。手段。伝聞した内容。意味は全部比喩的なもの (注ぎ出すイメージから) 。

「由」が音符として働く形声文字で「貫流する」の意味を表します。

「由」が音符として働く形声文字の実例

宙:意符「宀」(屋根;建物)  意味 = そら。天空。大空。
本来的な意味: 天空を貫くアーチに例えられる。

岫:意符「山」(やま)  意味 = 岩穴。洞穴。峰。
本来的な意味: 山を貫く洞窟。
「峰。」の意味は借用により。

抽:意符「扌/手」(て;動作の記号)  意味 = 引きだす、ぬきだす。
本来的な意味: 物体を引き抜いて取り出す。

油:意符「氵/水」(みず)  意味 = あぶら。
本来的な意味: 注がれる際に容器の口から油が流れ出る。

迪:意符「辵」(動き)  意味 = みち。みちびく。すすむ。
本来的な意味: ある地点から別の地点まで走る道路 (実際の道、抽象的な道でも) 。

柚:意符「木」(き;木材)  意味 = ザボン。
本来的な意味: 濾過装置を通した果汁。
「ザボン」の意味は必ずしも本来示した果実とは限らない。

胄:意符「月/肉」(にく)  意味 = ちすじ。よつぎ。かぶと。
本来的な意味: 世代を超えて受け継がれてきた血統。
「かぶと」の意味は「冑」との混用により。

袖:意符「衤/衣」(ころも)  意味 = そで。
本来的な意味: 腕を通す衣服の一部分としてそでがイメージされる。「紬」を参照。

笛:意符「竹」(たけ)  意味 = ふえ。警笛。ホイッスル。
本来的な意味: 音が通過する円筒形の楽器。

紬:意符「糸」(いと)  意味 = つむぎ。つむぐ。
本来的な意味: 手足を通す衣服の素材。「袖」を参照。

舳:意符「舟」(ふね)  意味 = へ。へさき。とも。
本来的な意味: 船体から細く突き出た船首。
「とも」(船尾) の意味は、突き出た部分が舟の反対側にあるところだとの再解釈。

軸:意符「車」(くるま)  意味 = ジク。かけもの。
本来的な意味: 車の両輪をつなぐ棒。
「かけもの」の意味は、「中心にする棒」のイメージから。

釉:意符「釆」(種などをちらかす)  意味 = うわぐすり。
本来的な意味: 陶器の表面に塗られたうわぐすり。

鼬:意符「鼠」(ねずみ)  意味 = いたち。
本来的な意味: 狭い場所を走り回る生き物。

まとめ

形声文字の音符として働く「由」の文字は、声母の歯茎閉鎖音が表す「まっすぐ」の意味を「並べて置く;当てる」という形で表します。介音は円唇母音で、表しているう意味は「湾曲状;円形状」です。「由」が音符として働く形声文字において、「湾曲状;円形状」が「アーチ状」と「円筒形」という形で現れます。

では、Until next time.