漢字に潜む古代中国文化への窓 (20):「九」
前置き
古代中国の発想、世界観などを追求する際、古代中国語の上古音における音象徴を参照すると、役に立つヒントを得ることが期待できます。今まで、「氣(気)」、「門」、「完」・「官」・「或」、「令」・「良」、「龍」、「包」、「此」、「隹」・「鳥」、「需」、「方」、「且」、「付」、「莫」、「由」、「麗」、「甲」、「肖」、「交」と「亶」を見てきました。今回は、「九」が音符として働く形声文字における音と意味の関連性について調べます。
上古音の構成
上古音の構成は:声母 + 介音 + 韻尾。声母 = 音節の最初の部分。介音 = 母音あるいは半母音。韻尾 = 音節の末尾に位置する音。
研究背景
言語学者により定着してきた「上古音における音象徴の存在」論に基づいている当方の見解では、「九」の場合、音と意味の間に次の関連性が見られます。声母は軟口蓋閉鎖音で、表している意味は「枠」です。介音は円唇母音で、表しているう意味は「湾曲状;円形状」です。韻尾は軟口蓋閉鎖音で、意味を表しているよりも単語の発音がここで「終了」するのを知らせます 。なお、「意味」より広く、「概念」、「イメージ」としても考えて良いです。声母が言葉の主要意味 (概念・イメージ) 、韻尾が言葉の二次的な意味 (概念・イメージ) を表します。
「九」の字形
「九」は、手が何かにぶつかって曲がったり湾曲したりする象形文字。 意味 = きゅう。
「きゅう」の意味は、「十」(10) にぶつかるイメージがあったからだ、と。借用による説もあり。
「九」が音符として働く形声文字で「ぶつかって曲がる」の意味を表します。
「九」が音符として働く形声文字の実例
仇:意符「亻/人 」(ひと) 意味 = かたき。あだ。かたきと見なす。
本来的な意味: (戦闘において) 敵とぶつかる際、体を曲げる。
尻:意符「尸 」(体;臀部) 意味 = でんぶ。しり。しりえ。
本来的な意味: 臀部。「九」は「体の曲がった部分」を強調する。
旭:意符「日 」(太陽) 意味 = あさひ。
本来的な意味: (比喩) 昇る太陽が東の地平線に当たり、上向きに曲がる。
究:意符「穴 」(あな) 意味 = きわめる。
本来的な意味: 穴の中で物を探しているときに手が物にぶつかり、掴むとまがる。
「きわめる」の意味は、「さがす」からの連想。
軌:意符「車 」(くるま) 意味 = わだち。
本来的な意味: 車の車輪が道路にぶつかって残る跡。
馗:意符「首 」(くび) 意味 = みち。
本来的な意味: 頬骨、眼窩に突き当たるアーチ状の骨。
「みち」の意味は、「道」との混合により。
鳩:意符「鳥 」(とり) 意味 = はと。あつまる。
本来的な意味: ふっくらとした一種の鳥。
「あつまる」の意味は、「ハトが群れる」というイメージから。クークー (ハトの鳴き声) に由来する説もあり。
鼽:意符「鼻 」(はな) 意味 = (はなが) つまる。
本来的な意味: 分泌物あるいは異物が鼻腔にぶつかる。
まとめ
形声文字の音符として働く「九」の文字は、声母の軟口蓋閉鎖音が表す「枠」の意味を「ぶつかって曲がる」という形で表します。介音は円唇母音で、表しているう意味は「湾曲状;円形状」です。「曲げる;曲がる;曲がった」の形で現れる。
では、Until next time.