👂【マクミラン博士とガードナー氏】ノベルセラピー作品

作　Ruby

🍀朗読はこちらのリンクからどうぞ😊🍀

ここは、サイキック・サージェリーの専門医院。
脳外科医のマクミラン博士は、ブルーのオペ着と、キラキラの光のヴェールでできたガウンを着ています。
博士の性格はつかみどころがなくて、容貌も特に印象に残らない顔立ちをしています。強いて言えば、眼鏡をかけているくらいです。
とても正確な手術をすることで有名で、根がまじめな先生です。術中に笑うことは一切ありません。
とっても不思議なのですが、女性なのか男性なのかも、よくわかりません。


今日、サイキック・サージェリーを受けに来たクライアントは、しまりすのガードナー氏です。
ガードナー氏は、ベレー帽をかぶっていて、赤いサスペンダー付きのズボンをはいた品のいいおじさんで、マクミラン博士と対等にお話をします。
とっても気さくな性格です。


ガードナー氏、どうして手術を受けに来たのでしょうか。
それは、亡くなった奥さんのことで、どうしても聞かなくてはいけないことがあって、奥さんとコンタクトを取りたいから、と問診票に書いてありました。


ガードナー氏は、すでに手術台の上に横になっていて、麻酔のかかった状態で寝ています。
手術を始めるマクミラン博士は、まずこの手術で使うクリスタルの棒を、ガードナー氏の額に当てました。
すると、どこからともなく大きなスクリーンのようなものが浮かび上がり、コンピューター分析されたクライアントの脳の精密な解剖図が映し出されました。


本日の手術箇所と思われる場所がクローズアップされていって、そこが赤く光って、ビーム音も聞こえてきます。
博士は目を閉じているまま、クリスタルの棒を頭に少し近づけたり、ちょっと離したりしています。
ときおり、ジ、ジ、と音がしたり、かすかに白く細い煙がシュッと立ちのぼったり、でも、ほんのわずかな動きだけでやって見せました。


博士はクリスタルの棒を術野からすっと離し、こんどは棒の逆側が急に重たくなったかのように手首を反らしました。
するとクリスタルは形を変え、複雑な彫刻のような姿になったかと思うと、こんどは、シャン、という音を立てました。
博士はクリスタルをゆっくりと振って、たまにシャン、という音を立てながら、エネルギーの調整やバランスをとっているようでした。
博士がクリスタルを元あった場所に戻そうとすると、それは最初に手に取った時と同じ、両端のとがった六角柱の水晶の棒の姿に戻っていました。


クライアントを整える作業が終わり、手術も終盤に近付いてきたころ、
博士は小さな三角フラスコに入ったうすい紫色の液体を3滴 ちょん、ちょん、ちょん、と術部に注ぎました。


その時、窓の外の月が、信じられないほどに明るく光って、一瞬目がくらんだけれど、
博士は「よくあることだから、大丈夫。」とひとりごとのように言いました。


博士は、助手のひとりに向かって、「熱いコーヒーを淹れておいて、もうすぐ済むから。」と言いました。
本当は言わなくてもいいんだけど、その時はこういうことを言ったほうが場が安定するから、と博士は思ったようでした。


手術は終了し、博士はクリスタルの棒をガードナー氏の額に当てて、確認作業をしています。
頭の中は、また、どこからともなく浮かび上がったスクリーンに映し出され、術後のポイントは青い光で示され、点滅して、手術の成功を知らせていました。


しばらくして、サイキック・サージェリー後のしまりすのガードナー氏は、目を覚ましました。
彼は、「ああ、そういうことだったのか、、、。」と、深く落ち着いた声で、開口一番に言いました。
そして、このように続けました。
「それはね、今は知ってはいけないことだったんだ。
　それがわかって、たいへんすっきりしたよ。ありがとう。」


博士は、それを聞いて、わかったような、、、
でも、わかってもわからなくても、どちらでもいい、というような顔で、ガードナー氏を見送りました。


これまで、ガードナー氏は、亡くなった奥さんと共に生きているような生活を送っていたのですが、
手術後、彼はとても変わったように見えました。
彼は彼の人生を生き、彼がどう生きたかったのか、それを体現し始めました。


庭の水やりをやめ、ガーデンは次第に活気をなくしてしまいましたが、
そのかわり、ガードナー氏はクラシックカーの手入れに熱心に取り組んだり、
古いレコードの収集に精を出したりして、
本当に彼本人がやりたかったことに、目が覚めたようでした。
そしてそれはたぶん、誰にとっても、喜ばしいことでした。


彼の眼には光が宿っていて、いきいきしていて、これまでの彼とは、ちょっと違う印象になったような、そんな風に見えました。


ガードナー氏は思いました。
これで本当にいいんだろうか？、と誰かに問いながら生きてきたこれまでだったような気がする。
でも、誰に遠慮して、誰の評価を気にして生きてきたのだろう、と考えてしまう。
いま、わたしは、私を生きている気がする。、、、やっとね。
誰に話しかけるでもなく、そんな気持ちになりました。



おしまい