ゲーム改造は著作権侵害に当たらない?欧州での新たな判決が示すもの
2024年10月17日、欧州連合司法裁判所(ECJ)は、「ゲームで使用されるいわゆる「チートツール」は、著作権を必ずしも侵害しない」という、驚くべき判決を下しました。この判決は、ゲームの改造やチートツールの使用に関するルールを欧州で大きく変える可能性があります。この訴訟の経緯と、判決が意味することについて分かりやすく解説します。
訴訟の経緯ーSony対Datelー
この争いは、ソニー・コンピュータエンタテインメントヨーロッパ(Sony)と、PlayStation Portable(PSP)に対応するチートツールやアクセサリーを販売している会社Datelの間で始まりました。問題の中心となった製品は、DatelのAction Replay PSPというソフトウェアです。これは、プレイヤーがゲーム内の変数を変更し、ゲームプレイのオプションを広げることができるチートツールです。
今回争点となったゲームは、Sonyが開発・販売したPSP用ゲーム「MotorStorm: Arctic Edge」です。
Datelのチートツールを使うと、このゲームを有利にチート(改造)できるため、Sonyは「Datelのチートツールは、Sonyのゲームソフトウェアを無断で改変するものである」旨を主張し、Datelを相手取ってドイツ連邦裁判所(BGH)に提訴しました。しかし、今般、BGHは、EU法に基づく解釈が必要であるとし、ECJに判断を仰ぎました。
ECJの判決
この訴訟の争点は、ゲームプレイ中に一時的にPSPのコンソールのRAM(ランダムアクセスメモリ)に保存される変数を変更する行為が、ソフトウェアの著作権保護の範囲内(許されない行為か)にあるかどうかという点でした。
ECJは、DatelのソフトウェアがユーザーによってPSPにインストールされて、ゲームソフトと同時に実行されることに注目し、「RAMに一時的に転送・保存された変数のみを変更する行為は、著作権侵害には当たらない」という判決を下しました。この判決でECJは、EU指令2009/24/EC(コンピュータプログラムの法的保護に関する指令)は、コンピュータプログラムのソースコードおよびオブジェクトコードそのものを保護するものであり、Datelのチートツールがこれらのコード自体を変更したり、再生産したりしていないことを指摘しています。
つまり、ゲームの実行時に使用される変数データの一時的な変更は、ゲームソフトウェア自体の複製や再創造を可能にするものではないため、著作権保護の対象外であるとされたのです。
なぜこのような判決になったのか?
ECJの判決は、EUの著作権指令が主に知的創作物の保護に焦点を当てていることに基づいていると考えられます。つまり、ソフトウェアのコードそのものは保護されるべき対象である一方、ユーザーがソフトウェアをどう利用するかやその機能自体は、著作権保護の範囲外であるという考えです。
今回の場合、Datelのチートツールは、ゲームのソフトウェアのコード自体を改変するものではなく、一時的に転送される変数を変更することでゲームの機能を変更するものであり、Sonyの知的創作物であるゲームのソースコード自体には影響を与えていない、という理屈です。
まとめ ーゲーマーや開発者にとって何を意味するのか?ー
この判決は、ゲームの一時的な動作を変更することと、ゲームのソフトウェア自体を改ざんすることの違いを明確にしたものです。ゲーマーや開発者にとって、この判決は、ゲームの変数を一時的に変更するチートツールや改造ツールの使用や開発が、EU内では著作権侵害に該当しない場合があることを意味します。
ただし、この判決はすべてのゲーム改造が合法であることを示しているわけではないことには十分に留意する必要があります。
今回の判決は、あくまでゲームの変数の一時的な変更に関するものであり、ゲーム自体のコードをコピーしたり改変するツールについては、著作権侵害となる可能性が高いことには変わりはありません。
公式の判決文は、CURIAのウェブサイトで閲覧することができます。
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