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ヘドロの創作 2024/12/15

 【猫の喫茶店】

 きょうは猫世界大河ドラマ「経典とネズミ」の最終回の日だ。
 この「猫世界大河ドラマ」というのは、人間がえねっちけーなる放送局の番組として見ている「大河ドラマ」というものを猫世界で真似したもので、基本的に歴史に題材をとったドラマを1年間放送するものだ。
 しかし脚本家もキャストもスタッフも全員猫であるため毎年猫のお腹のように少々中だるみするのがお約束のドラマ枠である。猫なので。
 しかし今年の「経典とネズミ」は、全く中だるみすることなく最後まで突っ走り、そのうえ戦のシーンもないのに面白く、その面白さから「10年に一度の傑作」と猫世界はたいへん盛り上がった。
 マスターはのんびりとコーヒーミルでコーヒーを挽きながら、のんびりと「経典とネズミ」の1月からのストーリーを思い出していた。
 第一話で起きた衝撃の展開、ニッポンに猫が渡ってからの貴族たちとのやんごとない暮らし、経典を守るためと言っておきながら結局可愛くて猫と暮らしている人間……いやあ面白かった。マスターは長年猫世界大河ドラマのファンだが、これだけ面白いのは久しぶりだ。

 大河ドラマは人間が作った文化だ。マタタビ市などの猫世界の住人であっても、猫は人間の家畜なので人間がいないと生きていけないのである。
 マスターだって猫世界を出ればただのグレーの猫だ。飼い主が大河ドラマを観ていると自分のほうを見てくれないので、破壊工作をしたりゲロを吐いたりして頑張ったものの人間は相変わらず大河ドラマが好きである。
 猫は猫なりに自分を見てほしいと思っている。人間に注目されたいし、大河ドラマをやっていないなら猫は実際人間みんなに見つめられているのだ。注目されるのは嬉しい。
 マスターは(そういえばきょうは人間の大河ドラマも最終回だったな)と考える。人間の大河ドラマはストーリーがややこしいし鳥や魚が出てこない、いや出てこないわけではないが画面の中をなにかがチョコマカ動くということがないので、特に面白く観た記憶がないのである。

 マスターは早く夜8時にならないかな、でもそれはそれでちょっと寂しいな、と思いながら、コーヒーミルをガリガリする。
 マスターはBSを契約していないので、昼とか夕方に観ることはできない。夜の総合の本放送まで待たねばならない。
 どうなるのかな。ワクワクするな。でも終わっちゃうのは寂しいな。紀行はどこかな。
 来年も文化猫大河で「歌川国芳」というのをやるらしい。猫を描きまくった浮世絵師の話だ。人間の来年の大河ドラマも江戸時代の文化人が主人公らしいのだが、人間の大河ドラマはお話がややこしいので興味はない。

 今年も年末だなあ、とマスターは思う。
 面白いテレビをつくるテレビマンはすごいなあと思いつつ、でも一瞬も中だるみしない大河というのは呼吸がしんどかったなと思いつつ、最終回でついにトニャコに暴かれることが前回ラストで示された主人公ニャヒロとミチニャガの関係がどこに落ち着くのかそわそわしつつ……マスターは今年がどんどん暮れていくのをちょっと寂しく思った。
 来年の猫世界大河も面白いといいな。昔の面白かった作品の猫世界大河と脚本家が同じらしいので、期待して待ちますか、と、コーヒーを淹れる支度をする。

「ますたー。こーひーひとつー」

 タージ・ミャハルの大将がやってきたのでコーヒーを淹れる。タージ・ミャハルの大将に、「きょうは猫世界大河の最終回ですね」と言うと、大将は「わたしねこせかいたいがよくわからないからみないよー。『せかいのはてまでイッテニャー』みてるよー」とのことであった。

「ずいっ」


 ◇◇◇◇
  おまけ

 最近聡太くんはかつおぶしが熱い。
 以前食べさせていた大袋入りで小魚の入ったかつおぶしは、底のほうにくると「ぼくこれいらない」とやるので、別の個包装のかつおぶしを与えてみたところ、残したカリカリにかけてあげると「これおいしいねもぐもぐ」とやるようになった。

「よしよしにほだされてなるものか……!」


 ただあんまり食べさせるとお腹がゆるくなる感じがするので、なるべく少なめにしている。健康なお腹を維持するのは難しい。

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