ヘドロの創作 2024/10/27
【猫の喫茶店】
マタタビ市はすっかりハロウィンの気配である。
街のいたるところにカボチャのランタンが灯され、コウモリのモビールが飾られている。ドクロやゾンビが街を埋め尽くし、若い猫たちが楽しそうにしている。
正直マスターにはハロウィンのなにがいいのかよくわからない。ガヤガヤうるさいし、本来の子供たちが楽しむイベントという趣旨から外れている気がする。とにかくマスターにとってハロウィンは「よくわからない若い人のお祭り」という印象であった。
ハロウィン直前の日曜日。エノコロ小路ではコスプレのイベントが行われていて、たくさんの猫がさまざまな仮装に身を包んで写真を撮ったりじゃれあったりしていた。
寒いのに半ば水着のような格好の女の子もいたりする。この天気でよくもまあ、と言いたくなるような仮装だ。みんな冬毛でモフモフになっている。人間世界では基本的に服を着ていない猫だが、猫世界では当たり前に服を着るわけで、暖かい格好をしたほうがぜったいにいいのに、とマスターは思った。
午後になってハロウィンのコスプレイベントはお開きになった。若い猫たちが何人か、喫茶「灰猫」に、コスプレのまま入ってきた。
1人は「ニャンダム」と書かれたダンボールから頭を出し、別の1人はタヌキ模様のメイクに季節外れの緑のアロハシャツを着ている。あとはマスターの知らないアニメかなにかのキャラクターだ。アロハシャツタヌキももしかしたらゲームやアニメのキャラクターなのかもしれない。
みんなお腹が空いていたのかパンケーキとコーヒーを注文したので、マスターはパンケーキをホイホイと焼いて出した。みんなうまいうまいと喜んで食べて、マスターは(そんなに悪い連中ではないのかもしれないなあ)と思った。
きょうはハロウィンではないので本当に悪霊の皆さんが地獄の釜から出てくるわけじゃないんだよな、とマスターはため息をつく。
ずいぶん遅くなってから「タージ・ミャハル」の大将がやってきた。くたびれた顔をしている。
「はろうぃん、あれなにがたのしいか?」
「さあ……若い人にしかわからない楽しさがあるんでしょうねえ」
「よそのくにのおまつり、かんたんにやるといけない。じぶんのくにのかみさま、ばかにすることになる」
信心深いんだなあ、「タージ・ミャハル」の大将は。
そもそもハロウィンというのを猫救世主教のお祭りだと思っている若い猫も多いらしいが、元はニャーロッパの土着のお祭りらしい。つまり得体の知れないオバケを仮装でもてなしている、ということだ。
そんな話をして、「タージ・ミャハル」のマスターはフレンチトーストをもぐもぐと食べ帰っていった。
喫茶「灰猫」のマスターが店じまいの支度を終えて、さあ帰るか、と裏口のドアを開けると、知らない黒猫の子猫が佇んでいた。
「どうしたんだい、こんな遅くに」
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ」
やれやれ。ここまできてハロウィンなのか。マスターはニャルボンのお菓子を適当に一個、黒い子猫に渡し、「ほらおうちに帰りな」と声をかけようとした。
――黒い子猫は、お菓子を渡した瞬間、ボワッと消えてしまった。マスターは目をぱちぱちして、起こった出来事がなんだったかわからず、首を傾げたのだった。
◇◇◇◇
おまけ
聡太くんを変な名前で呼んでしまうということはびっくりするほどしょっちゅう書いていることだが、自分でも訳のわからない呼び方がひとつあるので紹介する。
それは「ちびたんマスティフ」というものだ。「ちびたん」という愛称に大型犬の名前の「マスティフ」がくっついて、希少な犬種である「チベタンマスティフ」のような語呂を形成しているが、聡太くんは猫だし、たまちゃんよりずっと大きいとはいえチベタンマスティフほどは大きくない。猫だから当然だ。
前に紹介した「ピーポコ」も相当だが「ちびたんマスティフ」ってなんだ。大きいのか小さいのかさっぱりわからないぞ。なお本人、本猫? は自分を小さいと思っているらしい。ときどき無茶な体勢で人間に乗っかるのは小さいと思っているからだろう。