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ヘドロの創作 2024/9/15

 【猫の喫茶店】

 マタタビ市はすっかり秋の風情だ。
 ちょっとした街路樹の根本なんかで、鈴虫やコオロギが鳴いている。秋っぽい風も吹き、空は明らかに夏のそれとは違う雲が浮かんでいる。日が暮れるのも早くなった。
 そんな中、喫茶「灰猫」のマスターは、お菓子を試作していた。マタタビ市のはずれにある農園の直売所で、リンゴや洋ナシやサツマイモやカボチャをどっさり買い込み、それをお菓子にしてメニューに加えようと思ったのだ。

 とりあえずリンゴはアップルパイにした。カスタードもたっぷりだ。焼けるにつれ、オーブンから甘い香りがしてくる。
 洋ナシはコンポートにすることにして、鍋にレモン汁とともに入れてぐつぐつやると、うっとりするようないい匂いがする。
 サツマイモはスイートポテトに、カボチャはパンプキンパイにして、喫茶「灰猫」のマスターは、エノコロ小路で商売をしている常連客にどんな塩梅か食べてもらうことにした。

 エノコロ小路はおじいちゃんおばあちゃんの街である。喫茶「灰猫」のマスターがお菓子の試食会に招待したのは、年配女性向けの衣料品店をやっている三毛トラの陽気でおしゃれなおばさん、乾物屋のキジシロの元気なおじさん、そしてエノコロ小路でも「伝説の猫」とあだ名される古本屋の白猫のおじいさんである。
 白猫のおじいさんは元大学教授であり、なんでも知っていることで有名だ。いまはのんびりと、道楽で古本屋をしながら隠居生活を送っており、いわば落語に出てくる「なんでも知っているご隠居」のようなお爺さんである。まあ古本屋をやっているから正確にはご隠居ではないのだが。
 とある日のお客さんの少ない昼前に、マスターはこの3人を招待して試作したお菓子をどんどんどんどん! と並べた。三毛トラのおばさんが「まあおいしそう!」と歓声を上げた。

「マスターの作るお菓子は最高だからねえ。どれどれ」

 キジシロのおじさんはアップルパイをモグモグする。おいしいらしく目が真ん丸になる。

「こっちの梨のコンポートもおいしいわね。パンプキンパイもとってもおいしい」

「スイートポテトもいい甘さじゃないか。実においしい」

 三毛トラのおばさんとキジシロのおじさんは、おいしいおいしいとお菓子を食べていく。白猫のご隠居さんも少しずつゆっくりとお菓子を食べている。

「ご隠居、どんな塩梅ですか」

 キジシロのおじさんが白猫のご隠居さんに声をかける。ご隠居さんは口をもぐもぐと動かして、それからごくりと飲み込んだ。

「素晴らしい」

 もうそれだけで、秋の新メニュー開発は大成功なのであった。

 3人が帰ってのち、マスターは慣れないパソコンで秋限定新メニューの表を作った。これは流行るぞ。なんせご隠居から「素晴らしい」判定が出たのだから。
 そろそろ出版社などのオフィスからお昼ご飯を食べるために人がくる。マスターはのぼり旗を出していなかったのを思い出し、店のドアをカランコロン……と開けた。

 焼けるような太陽の光が降り注ぐ。まだ夏のような痛い陽射しだ。秋はまだ遠いようだ。(つづく)

「ほうしゅうはすいすぎんこうにふりこんでくれ……」


 ◇◇◇◇
  おまけ

 きのう弊noteで宣言したとおり、聡太くんの布団を洗った。きのうは比較的天気もよかったので夕方にはすっかり乾いていた。
 布団を洗濯された聡太くんは、寝る場所がなくてウロウロし、ボールの「生き別れの弟」をくわえて「うー! うー!」と言いながら家の中をウロウロした。そしてボール遊びをせがんできた。遊んでやったらそのあとソファで寝ていた。
 さっき乾いた布団を置いたら「これですよこれ」という顔をしてスポッとおさまった。きゅうくつになっても小さいころから使っているお布団は大好きなようだ。

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