ヘドロの創作 2024/8/18
【猫の喫茶店】
喫茶「灰猫」は、大きなビルのふもとにある。大きなビルには出版社が入っていて、出版社は毎日たくさんの本を作っており、コーヒーを飲んで一休みしよう、とか、お昼においしいパンケーキを食べよう、といった出版社で働く猫たちや、出版社で編集者と話し合ってきた作家猫たちがぞろぞろと「灰猫」にやってくる。
喫茶「灰猫」は大きな出版社のビルができるずっと前からそこにあって、いまではビルのせいですっかり日陰だが、マスターは全く気にしていない。涼しくなったと喜んでいるくらいだ。
具体的にはマタタビ市のマタタビ中央通りとエノコロ小路の交わるあたりに喫茶「灰猫」はあって、エノコロ小路はいまではすっかりおじいちゃんおばあちゃんの街だ。だから年金をもらって買い物にきた老猫たちもよくお茶を飲みにくる。
喫茶「灰猫」の外観は、ちょっと怪しい。レトロな雰囲気の赤いタイルの壁には、ビッシリとツタが絡まっており、スパゲッティやオムライスの食品サンプルは色褪せて、「本当にやってんのかこの店は」と思うことうけあいだ。
懐かしい印象の看板には、当たり前のことながら「喫茶・軽食 灰猫」と書かれている。営業しているか怪しい風体ではあるのだが、通りかかるとコーヒーの匂いがするので、それで営業していると分かる。
中に入ると穏やかなクラシック音楽がかかっている。ピアノ曲であることが多い。
内装は白い壁に明るい木目調の床で、テーブルは質素な印象のブラウンの木製テーブルだ。椅子もテーブルに揃えてブラウンで、座面にはゴブラン織のクッションが置かれている。
テーブルの上には当然、コイン占い機が置かれている。
人気メニューはもちろんブレンドコーヒーだ。マスターが焙煎して挽いたこだわりの一杯で、ネルドリップで淹れている。
ほどよい酸味とキリッとした苦味は、出版社で働く猫たちにとって最高の気分転換だ。
なお猫というものはコーヒーを嫌う、と人間は思っているが、マタタビ市のような「猫世界」において、猫は人のように暮らしており、コーヒーを飲むことは珍しいことではない。
あなたの家の猫も、ちょっと目を離している間に、マタタビ市などの猫世界に遊びにいっているかもしれない。
それはともかく。
フードメニューで人気なのはなんといってもパンケーキだ。分厚くてフカフカで、バターとメイプルシロップがたっぷりかかっている。次に人気なのがナポリタンスパゲッティで、懐かしい味わいだと人気だ。
季節のパフェも、自分へのご褒美として食べる猫がたくさんいる。季節のフルーツたっぷりのパフェはちょっと値段が張るが、間違いなくおいしい。パフェにも乗っている硬めのプリンは、単品で頼むこともできる。常連しか知らない裏メニューで、プリンになる寸前のアツアツを飲める「ホットのミルクセーキ」というのもある。
喫茶「灰猫」のマスターは、サバトラの紳士だ。コーヒーを沸かすのも料理を作るのも一人でこなしている。とにかく手際がいい。
さあ、きょうも開店の時間だ。サバトラの紳士は店のドアの鍵を開ける。まもなくからんころーん、と、ドアベルを鳴らしてお客さんが入ってくる。(つづく)
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おまけ
きのう、寝る支度をして歯を磨いていると、聡太くんが物言いたげな顔でのこのこと近づいてきた。いつもなら勝手に寝るのにどうしたんだろう、と思ったら、聡太くんはそこから台所に移動した。ボール遊びのお誘いだったのだ。
キャットフードを本来必要な量にしてから、ボール遊びのナイトルーティーンはやっていなかった。お腹がビックリするといけないからだ。でもボール遊びに誘ってくれたということは、お腹いっぱいでも元気に遊べるようになった、ということではないだろうか。なんだかとても嬉しいのだった。