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ヘドロの創作 2025/2/16
【猫の喫茶店】
ここで、この物語の大事な、しかしいままでずっと黙ってきた事実を語ろうと思う。
この「猫の喫茶店」こと喫茶「灰猫」のマスターは、人間世界において飼い猫である。子猫のころ人間の家にやってきて、去勢され、首輪をつけられ、猫可愛がりされている猫である。
子猫のころのマスターは、こまっしゃくれた顔をした子猫で、グレーの毛はぱやぱやとしており、人間がくれたボールを楽しくドツキ回す子猫であった。
そもそもはその人間の家で昔飼われていた先代の猫が、人間世界を去るとき「この家の人間は猫なしでは生きていかれないから」と、N機関に連絡を入れたのが始まりだった。N機関はねこねこネットワークとも呼ばれる組織で、人間世界において猫を人間の家に派遣するのが仕事だ。
マスターは人間の家の近くで、野良猫の子猫として生まれた。幼くして親とはぐれ、カラスが頭の上を飛んでいる絶体絶命のときに、人間と出会ったのである。
猫世界にマスターが行っているあいだ、人間世界の時間は止まっている。逆に、人間世界にマスターがいる間、猫世界の時間は止まっている。どちらか片方にいればもう片方は停止しているのである。マスターはその仕組みについて考えたことはない、猫なので。
最近マスターはずーっと猫世界にいる。人間世界にいけば留守番ばかりだからだ。人間はずっと猫に構っていてくれるわけではない。マスターはちょっといじけている。
別に人間が嫌いなわけではない。むしろ大好きだから留守番させられるのが嫌なのだ。人間世界にいれば、働く必要はないけれど、留守番をしなくてはならない。大好きな人間と一緒にいられるはずだというのに……。
人間世界に暮らす猫にとって、人間はいわばエルフだ。メトセラだ。人間は猫には想像もつかないほど長い命を持っている。
だからマスターは人間が好きだが少し恐ろしい。自分たちとかけ離れた生き物と、当たり前みたいに一緒に暮らすのはやはり不思議なことだ。
そしてそれは、マタタビ市だけでなく猫世界すべての猫にとってそうなのである。
マスターは思う。前に人間は「ねこはるすばん」や「ねこのようしょくやさん」「ねこのラーメンやさん」「ねこのすしやさん」「ねこのケーキやさん」などという絵本を読んでいた。それらは多少間違いはあれど、人間が猫世界を想像して書いたものだと思われた。
もしかしたら人間は、猫世界に憧れているのかもしれない。だから、人間に自分が喫茶店のマスターとして働いているところを見せてやりたいとちょっとだけ思っていた。そうしたらきっと人間は喜ぶだろう。
もちろんそれはできないことだ。マスターはそんなふうに考えながらコーヒー豆を挽いていた。
「ますたー。ふれんちとーすととこーひーくださいですー」
タージ・ミャハルの大将が現れた。これまたずいぶん早い時間だ。マスターはまだコーヒー豆を挽いているところだからちょっと時間がかかるよ、とタージ・ミャハルの大将に言った。
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◇◇◇◇
おまけ
聡太くんがカーテンを破壊した。カーテンを引っ張り、レールに留めているパーツをばちこーん!! とぶっ飛ばしたのである。なんてことをするんだ。
しかも飛んだプラスチックのパーツはどこかにないないされてしまった。なんでそういう危ないことをするのだろう。
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きのう聡太くんは夜、あまり遊ばなかった。とても心配したのだが、今朝起きてきたら「はようめしをくわせろー!!!!」と元気よく大騒ぎしていた。きっと寒かったとかそういう理由であろう。困ったやつだ。
猫というのは気分屋の生き物だなあと思う。いったいなにが気に入らなくてボール遊びを断固拒否したのかはわからない。猫は不思議である。