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ヘドロの創作 2025/1/12
【猫の喫茶店】
マタタビ市は10年に一度の大寒波が襲来し、暮らしていたり働いていたりする猫はみんなモッコモコに着膨れていた。寒い、とにかく寒い。雪もドンドコ降る。
本当に、こんなに寒いのはマスターの人生、いや猫生では初めてだ。道路はツルッツルのアイスバーンになっている。昔の朝ドラの「ブラックバーン校長」というのを思い出さずにはいられない。
それはエノコロ小路もそうだ。ある日マスターはいつも通り店を開けようと、上等のコーヒー豆をかかえてエノコロ小路を歩いていた。
雪が降ったり路面が凍ったりしているときは、なるべくゆっくり歩くのが肝心だ。
しっかりと、アイスバーンの上に雪が積もっているという最悪の路面を歩いていく。そろそろ喫茶「灰猫」が見えてくるはず。よし! マスターはゆっくりゆっくり道を進んでいた。遠くに喫茶「灰猫」が見えた。
もうちょっとで仕事ができる。マスターは気持ちがはやって、ほんのちょっと歩く速度を上げた。
その瞬間、足が盛大におかしな方向に滑り、マスターはバカバカしいくらい派手にすっ転び、腰を道路に打ち付けて悶絶した。
い、痛い。なんでこんなに、というほど痛い。
マスターはこれなら気を失ったほうがマシだと思った。痛い、意識が朦朧とするほど痛い。これはぜったい骨にヒビが入ったに違いない。
マスターが路面に転がったまま悶えていると、タージ・ミャハルの大将が、似合わない防寒着を着て現れた。
「だいじょうぶか?」
「だいじょうぶにみえます?」
「ほら、おきる。ハイネコはもうすぐそこだよ」
タージ・ミャハルの大将は、マスターを起こしてくれて、一緒に灰猫まで歩いてくれた。マスターが荷物を確認する。どうやら上等なコーヒー豆は特に問題なさそうだ。
まだ腰がジリジリと痺れている。腰痛である。ギクっといかなかっただけマシかもしれない。
冬の間の営業を休みたい気持ちでいっぱいになりながら、マスターは喫茶「灰猫」のまわりの雪を片付け、コーヒー豆を焙煎し、腰痛をこらえながらその日一日の営業を終えた。
あまりに腰がいたい、ただ転んだだけでこんなに痛いものなのだろうか。営業のあと、マスターは馴染みの病院に向かい、腰のレントゲンを撮ってもらったが、やっぱりただぶつけただけであり、痛み止めの湿布が出ただけで終わった。
明日も雪だという。「灰猫」、冬の間の営業をやめようかな。マスターはそんなことを考えつつ、次の日の営業をした。思わず「早く春になればいいのになあ……」とぼやいたら、ホットサンドを食べにきていたタージ・ミャハルの大将が、「フユきたりなばハルとーからじだよ。もうちょっとのシンボー」と言うので、マスターは思わずハハハと笑ったのであった。
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◇◇◇◇
オマケ
きのうは聡太くんがササミを「ぼくこれいらない」していた。解せぬ。
もしかしたら温めすぎたのかなあと思う。手でちぎりやすいように焦げる寸前、カラカラになるまでレンチンするからだ。水分が飛んでしまえば手でちぎっても熱いということはない。
しかしほどよい汁気というものが大事なのでは、と思う。断固拒否されたらビックリするし困る。
あときのうはサバの缶詰を開けた瞬間「いまなにかぱきゅっていいましたね!?!?」とダッシュしていた。やめなさい。
もしかしたらサバ缶がおいしそうで見比べて目劣りするササミを食べなかっただけかもしれない。人間の食べ物に興味はないもののおいしそうなのは分かるのだ。久しぶりにケージに聡太くんをしまったほどだ。
どうして猫というのは缶詰めにこういう反応をするのだろう。別に缶詰めのキャットフードなんて食べさせたこともないのだが。
それからなんとわたしはカンだけで操作して、部屋のストーブのタイマー時間を変更することに成功した。朝活がんばるぞい。