ヘドロの創作 2024/10/13
【猫の喫茶店】
喫茶「灰猫」は出版社のビルの日陰にある。出版社は子供の読む絵本から漫画雑誌から高価な学術書まで、たくさんの本を毎日作って売っている有名で大きな出版社だ。
だから喫茶「灰猫」には出版社に原稿の持ち込みに来た漫画家の卵が溜まっていたり、小説家が原稿を書くという名目でケーキを食べていたり、本を出す有名な学者が編集者と打ち合わせをしていたりする。
さて、きょうは編集者の茶虎の猫が、なにやら紙を広げてむつかしい顔をしている。
マスターは(これはゲラとかいうやつかな?)と、編集者を遠巻きに観察していた。編集者は紙をめくり、このまま印刷していいものか確認している。
猫の編集者は確認しながらマスター自慢のコーヒーをずずっと啜る。喫茶「灰猫」の閉店ギリギリまで粘るようだ。
大変なんだなあ。他にお客もいない夜である、マスターはコーヒーのおかわりと、ちょっとしたお菓子を編集者に渡す。お菓子は手製のものではなく、ふつうにスーパーで買える「ニャルボン」というメーカーの、お年寄りが好きな、ちょっと薄味のサクサクしたやつだ。
「あ、ありがとうございます」
「お気になさらず」
編集者はうれしそうにニャルボンの「ルニャンド」をサクサク食べ、ゲラをきっと睨んだ。タイトルには「刑事ぶち丸19 ねこ山荘事件」とある。
刑事ぶち丸シリーズはドラマ化もされた人気の推理小説だ。なにを隠そうマスターもドラマのファンである。このドラマを一気観するためにレコーダーを買うくらいのファンだ。
そろそろ閉店、という時間になった。編集者の猫は会社に戻って仕事をするらしく、ゲラを封筒にしまってリュックサックに入れ、コーヒーの代金を支払い出ていった。マスターは店じまいの支度をする。
それからしばらく経って、マスターは書店にいた。
マスターは「刑事ぶち丸」シリーズを、ドラマだけでなく紙の本で読みたいと考えていた。ドラマがあれだけ面白いのだから原作が面白くないわけがないのだ。
この「刑事ぶち丸」シリーズは、白黒ぶち模様の刑事・ぶち丸が、出かけた先でさまざまな事件に出くわす……というもので、時刻表トリックのエピソードがあったと思ったら離島の洋館が舞台のものがあったりとバラエティ豊かでたいそう面白い。
文庫本なので本が高くなったとはいえそんなに高価な本ではない。最近19巻が出たばかりで、「刑事ぶち丸」シリーズは全巻平らに陳列されていた。マスターは躊躇せず、1巻から最新19巻までを掴んでレジを通した。こういうのは大人の特権だ。
しかし19巻まで出ているとなると、最新刊の「ねこ山荘事件」にたどり着くのはいつかな、と、いつも忙しいマスターは苦笑する。
読書の秋、皆様いかがお過ごしですか?
◇◇◇◇
おまけ
最近聡太くんの「あそんで」の要求が激しい。「ぼーるをなげろ!!!!」とボールを持ってくるのだ。
しかし聡太くんが「ぼーるをなげろ!!!!」と持ってくると、だいたいボールを拾うのがちょっと面倒くらいの位置にポイと置いてしまう。体を伸ばして拾ってホイと投げると、くわえて戻ってきてやっぱり拾うのが面倒な場所にポイと落とす。
聡太くんがボールを喜んで追いかける場所に投げるのもコツがある。聡太くんが立ち上がって届く高さに投げるのがコツである。
父氏はそれがわからないで高く投げて聡太くんに「……はて……?」という顔をされている。ボール遊びにもコツというものがあるのだ。
うまく投げればジャンプしてまで獲りにいく。とても楽しそうなのだが人間としてはもうちょっと拾いやすいところにボールを持ってきて欲しい。
遊ぶということは健康であるということだ。健康なのは素晴らしいことだ。お腹いっぱい食べてぐっすり寝てたくさん遊ぶ、まさに「食う寝る遊ぶ」ではないか。