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ヘドロの創作 2024/4/28

 キジ太郎とクロ美は、洞窟を出て山の中を進み始めた。この近くに戦士が住んでいるという。なんでこんな山のなかに? とキジ太郎がクロ美に尋ねる。

「世の猫を避けてひっそり暮らしたい猫って、意外といるのよ。世の中にうまく適応できないというか。わたしは単純に魔術使い狩りから逃げたかっただけ。でも戦士はもっと深い理由があるそうよ」

 そうなのか。山の中のやぶを漕いで進む。体に草の種がくっついてくる。
 山のずいぶん奥に進んだところに、小屋が立っていた。小さな井戸があり、擦り切れた服に継ぎを当てた古い服が洗濯物干しに揺れていた。
 キジ太郎はその小屋の、思いのほか薄い扉をどんどんと叩いた。少しして、真っ白い猫、いや真っ白かったのであろう猫が出てきた。

「おお、クロ美じゃないか。そっちはだれだ?」

「久しぶり、シロベエ。こいつは噂の勇者よ。農民なのに剣を抜こうと思った物好き」

「そうか。まあ入れ、山登りで喉が渇いたろう」

 キジ太郎とクロ美はシロベエの家に入った。どうやらシロベエは世捨て人ならぬ世捨て猫のようだ。汲みたての井戸水が、陶器のコップに入れられて出てきた。
 壁には獲物と思しき鳥がたくさんぶら下がっている。なるほどこれなら1人でも暮らしていけるが、それは幸せなのだろうか。

 キジ太郎は、シロベエに「魔王討伐の旅についてきてほしい」と素直に言った。シロベエは愉快そうに笑った。

「かまわんが、お前さんは本当に魔王を倒せば世界が平和になると思ってるのか? 魔王の側にも正義というものはあるんだ」

「だとしても、僕は猫の正義を全うしたい」

「なるほど。そこまでしっかり決めているならなんも言えないな。どうせ俺ぁ世捨て人だ、いなくなったとてだれも心配しないだろう。よろしい、一緒に旅をしよう。食料は足りているか? 俺の獲ってきた鳥の燻製を持っていこう」

 そういうわけで、シロベエが旅についてくることになった。シロベエの得物は大きなマサカリである。いかにも戦士といった風情だ。

ちんまり。


 3人は山を下った。この山を降れば魔王城のある多島海まではすぐである。
 多島海はとてもとても広いようだ。猫の近眼では多島海の奥までは見えない。

「船でいくしかないんだろうか」

「そのようだな」

「でも魔族の出る多島海で、船を貸してくれる猫なんているのかしら」

 3人が浜辺で話していると、不意になにか轟くような音が聞こえてきた。耳が痛いので慌てて耳を押さえ、なにごとかと顔を上げる。

「ヒャハハハ! 猫ちゃんどもが多島海まで来たぜえ!」

 シロベエが鋭く叫ぶ。

「掃除機の魔族だ!」

「毛玉を吸ってやるぜえ!!!! ほーれほーれ、掃除機だぜえ!」

 キジ太郎は勇気を出して剣を抜く。クロ美は杖を構える。シロベエはマサカリを掲げる。
 掃除機の魔族は轟音を立てながら、3人に襲いかかってきた。キジ太郎は剣を振り抜き、掃除機のヘッドを叩き壊した。クロ美は水の魔法を詠唱し、充電の端子を狙う。シロベエはマサカリを大きく振りかぶり、掃除機の胴体に一撃を見舞う。

「うわあーッ」

 掃除機の魔族は、ヘッドのついた外装から飛び出し、ハンディクリーナーの姿で逃げ出した。3人は追いかけようと思ったが、多島海の彼方に飛んでいってしまったので、なすすべなく多島海の浜辺に立ち尽くすしかできなかった。
 なんとか多島海を進まねばならない。でもどうしたらいいのだろう。(つづく)

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