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ヘドロの創作 2024/11/10

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」のマスターはネットショッピングというのをやったことがない。マスターは初老と中年の中間くらいの歳だが、いままでネットショッピングで「これが欲しい」と思う品物を見たことがなかった。
 だがある日、なんとなくスマホでニュースサイトを眺めていたら、とても素敵なコーヒーカップとソーサーのセットが激安、という広告を見てしまった。激安ということはもしかしたら粗悪品では、とも思ったが、とりあえずサイトにアクセスしてみた。
 そのサイトは昔「おしゃれ蚤の市」というカタログ通販雑誌を出していた会社のサイトのようだ。「おしゃれ蚤の市」なら「灰猫」を開業するときにカップや食器などでお世話になった。これはネットショッピングにチャレンジしてみるいい機会なのではないか、と思い、マスターは恐る恐る「カートに入れる」なるボタンを肉球で押してみた。

「会員登録(無料)をお願いします いまなら3000ポイントプレゼント!」

 なぬ。とりあえず頑張って、書いてあるとおりのことを入力し、パスワードを考え、会員登録をした。そして欲しかったコーヒーカップとソーサーをカートに入れようとしたところ、「ただいまアクセスが集中しております」と表示され、結局買うことはできなかった。
 どうやら新しく入荷した商品だからそういうことになったらしい。日を改めて、できれば助っ人と一緒にやろうか、とマスターはきょうのところは諦めた。

 その1週間後、マスターは「タージ・ミャハル」でカレーを食べながら、「そういえば素敵なカップ&ソーサーがあるんだった」と思い出し、「タージ・ミャハル」の大将に相談してみた。タージ・ミャハルの大将は、「ねっとつーはんよくつかうよー、でもおしゃれ蚤の市というのはしらないよー」と答えた。とりあえず援軍として、タージ・ミャハルの大将を灰猫に呼んで、改めてカップ&ソーサーにチャレンジしてみることにした。

 まずはログインするところから始めねばならない。スマホが勝手にパスワードを覚えていたので、なんだ簡単じゃないかとログインしようとしたら「パスワードが間違っています」と表示された。
 解せない。マスターは鼻をふんすっと鳴らす。タージ・ミャハルの大将が「くっきーさくじょしてみて」というが、マスターにはクッキーがなんだかわからない。ログインできない、という質問の欄を開いたら「アプリからのログインをお試しください」と表示された。
「それならくっきーかんけいないよ」とタージ・ミャハルの大将も言うので、公式アプリをダウンロードした。そこからログインしようとしたところ、やっぱり「パスワードが間違っています」と出る。
 喫茶「灰猫」のマスターは、急に(こんなにややこしいなら別にいいか……)と猫らしい気まぐれを起こして、ログインできないままアプリを削除して、タージ・ミャハルの大将に「ありがとうございます」とお礼を言って帰ってもらった。タージ・ミャハルの大将は、「すまほ、ふるいんだとおもう」と答えた。確かにマスターは何年も同じスマホを使っている。古いのは確かだ。
 でもそれがログインに関係するのだろうか。マスターはその夜、マタタビをキメてストレスを発散したのだった。

 次のお休み、マスターは新しいカップ&ソーサーを求めて、エノコロ小路の雑貨店を覗いていた。
 ふと見るとネットショッピングよりずいぶん安く、もっと素敵なカップが売られていた。なあんだ、とマスターは嬉しくなって、そのカップを買ったのであった。

アーティストの宣材写真か!!


 ◇◇◇◇
  おまけ

 聡太くんは怪力おキャット様だ。引き戸なんて容易く開けてしまう。そして猫なので開けたら開けたままだ。
 開けたら閉めてくれ、と思う。ファンヒーターの灯油がもったいない。北国の人間にとって灯油は生命線だ。それに開けっぱなしにされると単純に寒い。
 小さい秋を一足飛びに冬になったみたいな天気が続いている。聡太くんにおかれましては暖かいところでぬくぬくしていただきたく思う。

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