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ヘドロの創作 2024/9/1

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」の建物を覆っているツタが、実をつけ始めた。次第に、季節は秋へと傾いている。
 マスターは「そろそろアップルパイの季節だな」とつぶやき、店のドアを開けた。まだ強い日差しを感じるが、それでももう真夏の太陽ではない。
 となりにある大きな出版社のビルの影になりがちな喫茶「灰猫」であるが、朝だけは太陽が当たる。マスターはきょうも、スーツの上からエプロンをしめて、コーヒーを用意する。きっとまだまだ当分アイスコーヒーが出るだろう。
 店の前にもある街路樹のサルスベリは花を散らし、街は確実に秋に向かっているようだった。
 夏の終わり。
 そういう空気が濃密である。それは猫からしたらこたつで寝る幸せな季節の到来であり、寒くていやな季節の到来でもある。

 さて、マスターが店をあけて、きょうもマスターのおいしいコーヒーを目当てにぞくぞくと猫がくる。
 午後になって喫茶「灰猫」に、どやどやと若い猫の3人組が入ってきた。目鼻の整った三毛の若い女の子と、キジシロの若者、シャムトラの若者の3人である。どうやら3人は大学の友達らしい。
 エノコロ小路を突き当たりまで進んで、道をネコクサ通りに折れたところに、「チャトラン大学」という大学がある。どうやらそこの学生らしいのだが、大学の講義が終わってやってきた、という感じではない。どちらかというと、大学をサボって海に遊びに行ってきました、という感じだ。

「マスター、メロンクリームソーダみっつ!」

 キジシロの若者がそう声をあげた。
 マスターは手早くメロンクリームソーダを用意し、銀のトレイでテーブル席まで運ぶ。三毛の女の子がとても嬉しそうな顔をした。

「よし。レポートの材料はじゅうぶん」

 シャムトラの若者がそう言い、レポート用氏を広げる。そこでマスターは、きょうがまだ夏休みであることを思い出した。
 どうやら若者たちは単純に海に遊びに行ったわけでなく、微生物だか魚だかなんだか知らないが、生物学に関するレポートの材料を手に入れるべく海に行っていたようだった。

 それにもう海は泳げる海ではない。波も高いしクラゲも出る。マスターは偏見で3人を見たのをちょっと反省した。

「あーあ、研究じゃなくてただ海に遊びにいけたらよかったのに」

 キジシロの若者がぼやく。

「そういうこと言わないの。夏休みがきょうまであったからなんとかなったんでしょう」

 三毛の女の子が小鼻にシワをよせた。

「クリームソーダのアイスと氷がくっついてるとこ、シャリシャリしておいしいよね」

 シャムトラの若者はレポートよりメロンクリームソーダに夢中である。

「のんびりしてないでレポート書く!」

「はぁい……夏休み、終わっちゃうな」

 若者たちはレポート用紙に、カリカリとペンを走らせていた。若者たちは結局、閉店ギリギリまで「灰猫」にいて、夕飯にスパゲッティナポリタンなんかを頼み、レポートを書いていた。提出できたか、マスターは知らない。(つづく)

お腹のホヨホヨ揉ませて。


 ◇◇◇◇
  おまけ

 聡太くんが「ムラ食い」を覚えた。カリカリを、さも「あんまりおいしくないんだよね、これ」と言わんばかりに残すのだ。そして後から来てポリポリ食べている。
 ちょっと前からカリカリの細かいところを「いらにゃい」と残していたので、ある意味当然の流れだったのかもしれないが、心配になって手から食べさせたりしていた。でもムラ食いしたあとのこのこ来てポリポリ食べるのを確認したので、少し様子をみようと思う。

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