小説『人間きょうふ症』⑤

 帰宅した私は、先生に貸してもらった本を二日かけて読んだ。ギリシア哲学で有名とされているプラトンが書いた原書の翻訳の本だった。読み進めていくにつれ、段々とこんがらがる。読んでいて何だか今の人間たちを思い浮かぶ。意味のわからないことを話題とし、意味のわからない表現をよく使う。本には顔の表情は描かれていないが、何となくだけど話している時の心情と私が本で解釈している心情とは全く異なっているように感じる。それが今の人間と似ていると感じてしまう。
 このプラトンの本は一通り読むものの、全く理解が追いつかなく、先生にどこから話せば良いのかが全然わからない。しかも、脳を鉛に変換させてしまうような感覚を覚えた。この本をすぐに返さなければ。あの息苦しい記憶が段々と脳裏に浮かんで焼きつかれてしまうから。
 外はそこまで暗くなかったため、私はすぐにでも学校に行った。先生を探して本を咄嗟に返し、必死になって言った。
 「先生…この..本は…恐ろしい..呪いをかけてきます…。」
 「え?何があったの。」
 「…お願いなので…その本を私の目の前から離してください……」
 私の恐怖心を察したのか、準備室ではなく、3階にある少人数教室で待ち合わせするよう言われた。

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夕渚
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